

サイバー |
ドキュメンタリー映画「Cyber Everything」を見た。ここで言うサイバーとは、私たちの生活の中にあるデジタル環境、インターネット環境が関与している日常の領域全てのことを指している。それを映画の中では新領域と表現している。この新領域は人間が作ったものであるが、今後その使い方に注意を払わないと想像以上の結論を招いてしまうかもしれない時が今まさに来ているが…あなたはどうしますか? という問いを投げかけている。と同時に、人間とは何か? という哲学的な思考にも及ばせる映画である。
この映画監督のシモン・ドータン氏と映画の編集を担当したネタヤ・アンバー氏とボン大学哲学科教授のマルクス・ガブリエル氏とともに世界初公開の試写会が東京渋谷であり、その場で鑑賞し、その後に座談会が開かれ、私も参加した。この会を主催したのは東京大学東洋文化研究所で、そこの所長の中島隆博氏がモデュレーターを務め、東大・藤井輝夫総長も参加した。この映画の中でたびたび出てくる「ARTS」という言葉。それがキーワードとして重要な思考のポイントになっている。
アーツを芸術と訳してしまうと、この中ではあまりにも歴史的文化的手段の技法的な狭い範囲になってしまう。この映画の中でいうアーツとは生命の誕生とか宇宙の誕生を想像するイマジネーション、創造するエネルギーのことを指している。「デジタルアートの期限はモンドリアンである」と映画監督のシモン氏は言う(シモン自身も映画でインタビューに答えている)。
また、インターネットの役割である「広く情報を共有する」という点での起源はグーテンベルグの印刷機であり、サイバーという新領域を作り出し始めた時には、今日のような状況になるとは誰一人考えが及んでいないというのが、現実である。そしてその進化は誰も止めることができない状況になっている。
このスピードはAIの出現によって加速していく。そのコントロールを人がするべきか否か、というより、出来るのか否か…。私たちは情報という教育によって思考、思想が生まれてくる。その情報をサイバーが支配していく。支配するという言葉は、いいことにしろ悪いことにしろ、あまり望ましくはない。支配ではなく、一人一人の違いが、それぞれの個々の色が互いに色合いとして美しくあるような状況を求めて行くような世界に、新領域とともに進化していきたい。
(アーティスト)