253:ルドンとコラボ

 

ルドンとコラボ

 

 南フランスのナルボンヌの郊外にあるフォンフロワッド修道院でレジデンスアーチストとして滞在制作をしてきました。多くのアーチストがここで作品を制作してきていますが、そのうちの1人がルドンです。彼の絵は図書室と呼ばれている部屋に現在も設置されています。幅6m、高さ2mの大きな作品が四角い部屋の中で向き合って壁に描かれています。
 ルドンは約100年前にここの部屋で絵筆を握り、制作をしたのです。私はその同じ空間で、ルドンの絵に囲まれながらこの部屋の床にそして天井に絵を描いてきました。「えー! そんなことできるの?していいの?」というあなたの声が聞こえてきます。「はい、していいんです!なぜならばVRだから!」。
 つまりどういうことかというと、私がVRゴーグルを装着して、手には絵筆代わりのコントローラーを持ち、ゴーグルを通して見えているルドンの絵がある図書室空間に大きな架空のキャンバスを広げて、「VRペインティング」という仮想空間に絵が描けるアプリを使ってメタバース空間に絵を描いて行ったのです。
 人間は反応する生き物です。ルドンの絵のある図書室には力があります。そこに身をおくことによって体が動き始め、その軌跡が絵になっていくのです。メタバース空間の中においては、現実の空間にある様々なものから解放されます。例えば、絵の具がなくならない! 筆から永遠に絵の具が出続ける! つまりいつまでも描けるのです。天井画を描いていても絵の具が垂れてこない。全ての動作が、描くことだけに集中できるのです。
 このような特殊な感覚は、ルドンの絵が側にあるという特殊性と相まって、より身体は疲れを知らず、まるでドーピングしたアスリートのように、ハイテンションになり、描くことの純粋な喜びを感じ続けていたのです。気がつくと一週間が経っていました。
 その間私は、VRの空間を出るたびに、風が吹いては紙が飛び、絵の具を手に着くことに愛おしさを感じて、現実の世界でも絵を描いていました。二つの空間を出たり入ったりするその様子はプラスの磁力とマイナスの磁力が引き合い、力が増していく感じでした。フォンフロワッド修道院で描いた作品は今年の秋に岐阜県美術館で展示します。同時にルドン展が開催されます。ぜひ見にきてください。

                                     (アーティスト)