

| ルドンと日比野 |
2025年5月4日午前7時7分、フランスのフォンフロワット修道院の図書室にきています。1週間前からルドンの作品が壁に設置してあるこの図書室で制作を始めました。部屋の壁には2m×6mの大きな絵が対面するような位置で2枚あります。私はその絵に挟まれ、床面を使ってルドンの絵と同じサイズの紙を2枚広げて絵の制作を5日間、行いました。今その活動を終えて、その気持ちを書き留めておきたいと思います。私がここで絵を描くときに感じたことを改めて振り返って話します。
ルドンがこの部屋で描いた絵を近くで見ていると、そこに見えるのは彼の動き、リズム、描く順番、絵の具の重ね方、力の入れ方、全ての時間…。この部屋で過ごした時間が全て記録されています。そのものすごく強い彼のリアルなプロセスのアーカイブは、この部屋中にそのまま残っています。作品がここで描かれたということがその強さを担保しています。ルドンの作品がこの部屋にあり続けている意味がそこにあります。
この作品はこの部屋で描かれました。この作品はこの修道院で描かれました。この作品は葡萄畑で囲まれたフォンフロアド地域で描かれました。ルドンのこの作品の周りにある環境が一体になってこの絵がここに存在しています。その環境は100年以上同じです。ずれることなく、ぶれることなくここに在り続けています。ゆえにルドンが描いたもののプロセスの強さをより感じとることができます。
この図書室から生み出された2種類の作品(ルドンの作品と日比野がここで描いた作品)が今ここにあります。ルドンの絵には、ルドンが絵を描きながら見ていた当時のフォンフロワドの風景と、ルドンの人生の風景があります。私が描いた絵の中には、私が見たルドンの絵を通しての風景と、現在の図書室の窓から実際に見えるフォンフロワドの風景がありました。
私はルドンが描いた作品にあるルドンさんの人生とこの修道院のオーナーで、ルドンを支援し、現在もアーチストを支援しているファイアさん一族の人生の力を感じながら絵を描くことができました。この部屋を母と見立てれば、ここにある2種類の作品は兄弟のような気がしています。
私たちは何を伝えるのか? 私は今回の大変貴重な体験を通してあらためて、結果の絵だけでなくその過程での作者の感情を伝えていくことが大切である、と感じました。物だけではなく事に焦点をあててのアート活動を、続けていきたいと思います。
(アーティスト)
