omb560号

 紙面を読んで From Ombudsman560 

 

画・松本 令子

 

 渡邊 千香

 第558号「生誕110年 田部君子」特集を読んだ。関係者のインタビューや田部家の来し方など、詳しく丁寧に深く掘り下げた内容で大変興味深かった。
 勤務館で2021年にスポット展示を開催したが、その折に初めて「田部君子」の名を知った。当時の館長中山雅弘氏に渡された歌集を開いて、瑞々しい歌に心をつかまれた。
 会期中は、より多くの人に君子の作品が届いてほしいという思いを胸に、いわき市出身の歌人井上法子氏による講演会を開くなどしたが、正直なところ来館者の数は今一つだった。
 もう少し何か出来たのではないかと、心残りを抱えながら日々を過ごしていたが、2023年、いわき市遠野町で手漉き和紙を製作している高嶋祥太氏から、君子の生地である遠野町で古くから作られてきた遠野和紙に、高嶋氏が君子の短歌を揮毫した書道作品を展示したいというお話をいただいた。スポット展示を見て、君子の作品に関心を持ったそうだ。その後、2024年、2025年のいずれも2月から3月に、市民の創作発表の場として利用していただける当館の市民ギャラリーで「遠野和紙×田部君子 高嶋祥太作品展」が開かれた。
 2024年10月にはいわき市平で「田部君子フェスティバル」が開催され、井上氏のトークショーや、君子の短歌から着想を得たダンス作品の披露、北林由布子氏の案内でゆかりの地を自転車で巡るツアーなどが行われた。2025年11月にはやはり平の街なかで短歌とダンスと音楽のパフォーマンス作品「時空おどりびと 1000年後までつづく道草」が行われた。今年、いわき市在住の書道家江川文子氏が君子の短歌をしたためた作品を「日本の書展」東京展に出品している。君子の作品が色とりどりに広がっていくのを見て、思いがけない喜びを得ている。
 「靑海原視野いつぱいに見えくればわが六月の心張りくる」。仕事中ふと顔をあげると木々の向こうに太平洋がみえるという、恵まれた環境で働いている。そんな私の心情に今この作品がなじむ。受け取る人によって1つ1つ違う輝きを見せてくれる君子の作品の魅力が、今回の特集でさらに多くの方に関心を寄せていただくきっかけとなり、また新しい扉が開かれることを楽しみにしつつ、その一端を担えることを願っている。

(いわき市勿来関文学歴史館 学芸員)



 

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