| 紙面を読んで From Ombudsman | 567号 |

金子 佳央
このところ、イノベーションによる仕組みや価値の変化、AI、SNSなどの情報過多に振り回されている。そうしたなか、二週間に一度手元に届く「日々の新聞」の紙面から、本来の自分に引き戻される。それは、ずっと身に着けてきたアナログ時計のような感覚で、この新聞は自分にとってのタイムピースなのだと思う。
競輪場の近くにある地中海風の建物。オレンジ色の屋根、濃いベージュ色の漆喰の外壁、焦げ茶色の枕木の階段、むき出しの梁とオフホワイトの壁…。月2回、そこでパタパタと新聞を折り、透明なビニール袋に入れて宛先のシールを貼る。新聞が届いて封を開けたときに思い浮かべるのは、そうした作業をしている、安竜さんや大越さんたちの姿だ。
日々の新聞と最初に出合ったのは、日比野克彦さんが平の街中でワークショップをやった初期のころで、以来、四半世紀にわたって購読している。時間対効果(タイパ)、費用対効果(コスパ)の渦に呑み込まれて業務に追われ、ほとんどのやりとりがメールやメッセージ。そんな感覚に慣らされているなかで、紙面を通してふいに、懐かしい人たちと出会う。おそらく、この新聞を介した人とのつながりこそが、自分の本来の現実なのだろう。そんな気づきを与えてくれる存在でもある。
学生時代に李白の漢詩を読み、人と人との純粋な出会いの大切さを知った。ネットによるコミュニケーションの場合、プッシュされる人とは付き合いが続くけれども、プッシュがないと頭から消えてしまい、誰かが誰かを思う機会が減っている。「日々の新聞」には紙媒体特有の温かさや、寄り添い触れ合う、という良さがある。
ますますイノベーションが加速して情報がオーバーフローしていくなか、日々の新聞の2人にはどうか、後進の育成も含め、この温かい地域の中での人と人との輪を編み続けてもらいたい。それを期待している。
(平在住)
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