426号

 平飲食業組合の会長をしていたころは、組合に加盟している店が田町と白銀で130件弱ありました。いまはもう、40軒ぐらいになってしまったのではないでしょうか。大手の居酒屋チェーンは組合には入らないし、組合自体が縮小化していますからね。コロナで、プールしていたお金を各店舗に2万円ずつ配ったんです。大きい金額じゃないですけれども、100件あれば200万円ですからね。あとは助成金利用などの相談に乗る、ということです。
 コロナでどれだけ大変かというと、まず客が来ません。半分以下です。うちの場合は1週間のうちに3日ぐらいはゼロです。大手の企業なんかは「大勢の飲み会はだめ。田町に行くときはなるべく個人で飲みなさい」という禁止令が出ているので、団体客を取れないわけです。
 従業員はそれまでフル出勤だったものが1日おきになったりしています。給料がみんな日給月給なので、減収です。小さい子どもや扶養家族がいる人は生活していけないので昼間のバイトを探します。でも企業側は、よっぽどじゃないと人を採らないので、大変です。
 店自体も週末だけとか、客が来るときだけ開けるケースが多いですね。こうなると、1人の女の子が1人の客を連れてくる、1本釣り方式にならざるを得ません。毎日でなくても自分の給料分を自分で稼がなければ、という状況です。わたしのところは、いままで来た人が細々と「顔見に来たよ」という、安否確認的な感覚です。「家に年寄りがいるので」と感染を心配して来ない人もいます。
 各店はコロナ対策にも気を遣っているようです。田町は雑居ビルが多いので、クラスターが出たら、ビル全体を消毒しなければなりません。その時点でアウトです。でも、接待を伴う飲食店というのはみんな、女の子を目当てに来るわけですから、対策が難しいわけです。消毒をしているし、距離も置いているようだけれどもマスクはしていませんね。接待業でマスクをして商売しているところは、まずないです。 
 これからの飲食業はどうなるんだろう、と思います。「無担保無利子だから」とお金を借りたとしても売り上げがないわけだから、どうやって返していこうか、ということになる。借りることさえ躊躇せざるを得ないんです。どれだけ体力があるかにかかっている、難しい時代です。
 そしてやめ方を考えている人たちが多いですね。長くやった店ほど「年だから」「コロナだから」を理由にするのではなく、「30年、40年やったのですが、後継者がいないので」という感じです。商売そのものが自分の人生のほとんどなんですから、区切りを探しているんです。とはいえ、借金を抱えている人もいっぱいいるでしょうから、どうやって返していくのか、という問題もあります。
 一番心配なのは、万が一コロナが収束したとしても、「飲みに出ていけない」という心情が習慣としてでき上がってしまうことです。家で旨い酒と料理を楽しむことに慣れてしまうと、いままでみたいに表に飲みに行くとか、食べに行くという機会が、ぐんと減ると思うんです。それが怖いですよね。
 ぼくらが店をやっている強みというのは「これはうちでしか食べられませんよ」という差別化だったのですが、それが崩れ始めているいま、唯一残っているのは人です。「あなたがいるから、あなたに会いに来たんです」ということだと思うんです。そういうものを構築していく以外は、飲食業が残る道はないのではないか、と感じています。
 ことしは忘年会もやらないだろうし、できないでしょうから、とても静かな年末になりそうです。