![]() |
お蚕さんの恩返しのはなし | 545号 |
「彫刻家の安藤榮作さんの展覧会が開かれている奈良県立美術館で会えたら」と連絡を取り合っていた、奈良県生駒市在住の染織家の寺川真弓さんがその日、美術館に来てくれた。別れ際に「お茶にして飲んで」と同行者たちの分も合わせて、お蚕さんが食べ残したクワの葉とうんちのお土産をいただいた。
寺川さんは絹糸を草木で染めて織り、タペストリーやストールを作っている。10年前に生駒に引っ越してからは土を耕して桑の木を植え、その葉でお蚕さんを育てている。そして、そのころからお蚕さんが食べ残した葉とうんちのブレンド茶を飲んでいるという。
例えば、300頭の蚕が1番食べ盛りで成長の著しい5齢(最終齢)の時、1日にご飯茶碗1杯分ぐらいの糞をする。それを1週間ほど天日干しして乾燥させる。その間、毎日手でかきまぜていると、手がつやつやしてくるそうだ。
お蚕さんにはいい桑の葉を選んで食べさせているが、新しい葉を与えると前の葉は食べないので、桑の葉はその食べ残しを再利用。時には葉に脱皮殻がついていることもあって「いい成分が含まれているに違いない」と、それも含めて利用している。
調べてみると、桑の葉もお蚕さんの糞も古くから健康保持に利用されていた。桑の葉は糖の吸収を抑え、血圧や血中コレステロール値の上昇も抑制し、便秘を改善。お蚕さんの糞は「蚕沙」と呼ばれ、漢方にも活用されていて、血行促進、神経痛や関節痛など痛みの緩和などに効くという。
教えられた通り、お茶パックに桑の葉と糞を適量入れ、日に何度もティーポットにお湯を注いて飲んでいる。癖はなく嫌な感じもない。このお茶を寺川さんは「お蚕さんの恩返し」と言う。
(章)
そのほかの過去の記事はこちらで見られます。

