モノクローム

まんまるな月のはなし 541号

 

 9月7日の晩、午前1時半にアラームが鳴るように目覚まし時計をセットして横になり、数時間後、寝ぼけ眼で空を見上げた。部分日食が始まっていて満月が少し欠けていた。その晩は3年ぶりの皆既月食で、月食が最大になる時間にまたアラームをセットしてベッドに入った。けれど気がついた時は5時半、外は明るくなっていていた。
 7日の夕食後にまず満月を見た時、いわむらかずおさんの絵本『14ひきのおつきみ』の、まんまるな月を14ひきのねずみたちが大きなクヌギの木に作ったお月見台から眺める場面が頭に浮かんだ。まっかな夕日が沈んで燃えるような夕焼け空になって、それから夜が広がって、クリの実やドングリ、おだんごを供えたら、山の向こうから、まんまるな月がどーんと現れるのだった。
 雑木林で暮らす野ねずみ一家を描いた「14ひきシリーズ」の絵本は全部で12冊ある。最初に出版されたのが1983年だから、シリーズがはじまって40年以上になる。なかでも気に入っているのは、あさごはんやピクニック、それにおつきみ、あきまつりなどだろうか。栃木県の那珂川町にある「いわむらかずお絵本の丘美術館」に出かけて周辺の里山を散策すると、野ねずみたちの世界をじかに感じることができる。
 東京生まれ育ちのいわむらさんは、36歳の時、栃木県益子町に移り住み、畑を耕しながら創作活動をしていた。昨年12月、その益子町の自宅で老衰のために、85歳で亡くなった。14匹シリーズの最後は2007年作の「もちつき」だった。いわきで開かれた原画展での講演の際に取材しているので、スマートフォンにいわむらさんの番号が登録されている。「まあるい月が出ていますね」と、電話をかけたくなった。

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