![]() |
映画「杳かなる」のこと | 534号 |
車いすでまちに出て公園に向かい、写真を撮り、本を読む――映画「杳かなる」は、そんな佐藤裕美さんの日常から始まる。裕美さんは進行性の難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者。全身の筋肉が徐々に弱まるが、有効な治療法はまだ見つかっていない。
発病前、裕美さんは夫と塾を経営し、さまざまな社会活動にも携わり、東日本大震災後は南三陸町のボランティアもしていた。2014年、富士山を下山中に歩きづらさを感じ、整形外科を受診しても原因がわからず、4年後、ALSと診断された。映画の撮影は2020年から三年半にわたった。
病気の進行に伴って人工呼吸器をつけて生きるか、つけずに死を待つかの選択が迫られる。つければ声が出なくなり、文字盤の文字を目で追い、介助者を介して相手に意思を伝えるようになる。やがて目を動かすことさえ難しくなる。
そういう先のことを知り、考えなければと思いつつ躊躇する日々。裕美さんはALS患者で、人にやさしい社会を目指し運動している岡部宏生さんと出会う。岡部さんは「私と一緒に生きることって何かを考えてみませんか。15年も考え続けてきたのにいまだにわかりません」と、裕美さんに言う。
岡部さん自身、発病後すぐに自殺が頭によぎり、それに「死にたい」と介護者に口にしたこともある。呼吸器をつけて生きるつもりはなかったが、先輩患者たちのいきいきと生活している姿に勇気づけられたという。
映画には、ほかにも生きることに奮闘する先輩患者たちが登場する。生きることは何かを問いかけ、だれかが関わってくれることが生きていくことにつながっているのを教えてくれる。
(章)
そのほかの過去の記事はこちらで見られます。

