編集室から

仲代達矢さんの死 545号

 京都と奈良、琵琶湖周辺を2泊3日で巡った。一番の目的は比叡山の西塔にある草野天平の詩碑「弁慶の飛び六法」。この詩碑が建てられたのは1986年(昭和61)だから38年前。長い歳月のなかで苔がむし、文字が見にくくなっていた。それを高圧洗浄機できれいにし、建立当時に関わった小森秀恵さんがよみがえらせた。比叡山の巨岩を運んで天平自筆のペン字を刻み、台座は穴太衆積みの立派な詩碑。あいにくの雨模様だったが、いまは亡き天平と夫人の梅乃さんが天から微笑んでいるような気がした。
 そして12日、仲代達矢さんの訃報が伝えられた。8日に肺炎のために亡くなっていたという。92歳だった。実は38年前の詩碑除幕式で、仲代さんの朗読テープが流された。梅乃さんが女子学院で教えていたときの教え子が仲代夫人の宮崎恭子さんだったことから、仲代さんが朗読を引き受けてくれたのだった。
 天平はこの詩で勧進帳の弁慶の姿を借りて、自らの人生を投影した。その詩と仲代さんの声、風貌や演技が重なる。ご冥福を祈りたい。

(編集人 安竜昌弘)

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