556号 中村桂子さんの言葉(2026.4.30)

画 黒田征太郎

 

  AI氾濫の社会で
 「生きものとしての本来の道」を歩む      

中村桂子さんの言葉

 

 ことしも草野天平と妻・梅乃を偲ぶ「詩と音楽の集い」が4月18日、東京都世田谷区の小さな音楽ホール、サローネ・フォンタナ」で開かれた。天平の詩や梅乃のエッセイを朗読し、二人が好きだった音楽を奏でる。会のあとはコーヒーとクッキーの茶話会に移るのだが、その年に1回のおしゃべりが楽しい。そのなかに、生命誌研究者の中村桂子さんがいる。 
 中村さんとは震災後、いわき市立美術館で初めてお会いした。その後、中村さんが監修し、出演した映画「水と風と生きものと」が喜多方市で上映されることを知り、あいさつがてら観に行った。それがきっかけでメールや手紙でのやりとりが始まり、思い立って集いにお誘いした。中村さんの家が会場と近いので「よろしかったら」とメールを出すと、「興味深い会ですね。参加したいです」と返事が来た。間にコロナを挟んだが、ほぼ毎年お目にかかっている。
 中村流の健康法なのだろう。必ず、成城学園駅の反対側にある自宅から会場まで、坂を登って歩いてくる。チェロとヴァイオリンとピアノの生演奏で豊かな時間を過ごしたあとは、戦争のこと、科学のこと、音楽のことなどを話す。それが楽しい。
 中村さんの家では絶えずクラシック音楽が流れているそうで、好きな作曲家は?と尋ねると「ベートーヴェンです」と、躊躇なく答えた。そして『沈黙の春』や『センス・オブ・ワンダー』を書いたレイチェル・カーソンの話になり、生成AIが氾濫することで人間がいかに弱体化するかを熱く語った。
 「言葉は人間が生み出したものでAIには作れません。AIは文を理解して話しているわけではなく、大量のデータの中から統計と確率によって文をつくっているだけです。車が人間を超えられないようにAIが人間を超えるなんてありえません」 それはAIに侵され始めている人間や社会への、真摯な警告なのだと思う。
 この機会に、中村さん関連の「レイチェル・カーソン『沈黙の春』」(中央公論新社・すごい古典入門)と『センス・オブ・ワンダーを語る』(かもがわ出版)を開いた。そのなかで中村さんはAIを「内の自然破壊」ととらえ、「人間の人間らしさにもっと目を向ける時なのではないでしょうか」と訴える。それはカーソンから託され、中村さんが胸に刻む「生きものとしての本来の道」を歩むことなのだろう。

                                       (安竜 昌弘)

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