| 紙面を読んで From Ombudsman | 564号 |

大森 由美子
自分の子供が突然死んでしまったら…。そんなことを考えたことがありますか。なんの前ぶれもなく突然お別れする辛さ、怖くて想像できない。詩人の浅井たけのさん(561号のPERSONA)は、12年前に二男を失くした。予期せぬ別れであった。しばらくは虚しさから何も手につかない状態だった。おそらく息子さんのことを思わない日はなかっただろう。でも彼女には詩を書く意欲が残っていた。そして自分の思いを綴ることを再開した。
23年ぶりの詩集、タイトルは「黒揚羽」。息子さんは時に黒アゲハになり、また別の時には鬼ヤンマになって浅井さんの前を飛んでいく。ただ飛び去るのではなく、母の姿をつくづく眺めてから去っていく。息子の視線は母の姿はもちろん、心の中ものぞきながら通り過ぎているようだ。
「母さん、元気でやっていますか」「おいしいご飯食べていますか」「最近一番笑ったことは何ですか」「この頃気になるニュースはありますか」。母への問いかけはどこまでも優しくあたたかい。家族間ならなんてことない会話が、実はかけがえのない日常の一場面なのだ。そんな当たり前の生活が突然消えてしまうなんて、辛すぎる。
浅井さんの一番の心残りは、息子さんときちんとお別れできなかったことだ。もっとたくさん言葉をかけてあげたかっただろう。一緒にいる幸せな時間を奪われ悲しい日々を克服しつつ、そんな状況を詩で乗り越えようとしている浅井さんの姿は凛々しくさえある。
浅井さんは貧しくて思うように本を買えず、暇さえあれば国語の辞書を開いて活字を追っていたそうだ。これには共感してしまう。私は語彙力が乏しく的確な言葉で表現するのが苦手だ。でも辞書を引くことは好きで、国語辞書ならその語句を使った例文を見るし、英語辞書だったら調べようとしている単語の前後にある語にも目を通す。この作業はスマートフォンで瞬時に答えが出る便利さとは別次元の楽しさだ。見つけた言葉、偶然拾った言葉で浅井さんのように詩を書けたら、と思いながら当たり前の日常を今まで以上に大切にしていきたい。
(平在住)
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