158号 函館にて(2009.9.30)

画・黒田 征太郎

町歩きしながら、いわきを考えた

 函館にて

 高校野球が終わったと思ったら衆議院選、そして市長選。ほとんど休みなく動いていたので、どこかへ行きたくなった。「とりあえず、いわきを離れたい」と思ったのである。おあつらえ向きにシルバーウイークがやってきた。18日までばたばたと仕事をして、切符を買った。「3連パス」。JR東日本管内プラス函館区域が3日間乗り降り自由。特急券付きで、指定も4回使える。
 行き先は函館。1度も行ったことはないのだが、川本三郎さんが「東京以外に住むのだったら函館」と書いていたのが気になっていた。海峡、坂、路面電車、夜景…。なんとなくイメージが湧いてくる。日程は19日から2泊3日。20日の宿がとれなかったが、「ま、函館がだめなら青森か八戸に1泊して帰ってこよう」と高をくくって出かけた。
 旅で読む本は短編、しかも文庫本に限る。本棚から『日本すみずみ紀行』(川本三郎著)と『橋ものがたり』(藤沢周平著)を取り出して鞄に入れた。いわきから函館まで、約7時間の旅。ビールを飲み、駅弁でも食べながらのんびり、となった。

 川本さんは町歩きの達人で、『日本すみずみ紀行』のなかでもよく歩いている。1時間2時間ぐらいは平気で歩く。そしてのどが渇くと食堂に入ってビールとなる。いわきは広域多核都市なので、自然と車に頼ってしまう。ちょっとした距離でも車を使ってしまうから、まちや季節の変化に鈍感になっていく。当然、路傍に目を向けなくなり、何かを置き去りにすることが多くなる。
 町歩きの苦しさと楽しさを体感させてくれたのは、草野杏平さん(詩人・草野天平のご子息)だ。10年以上のつきあいだが、奈良と坂本(滋賀県)のまちを案内してもらい、鍛えられた。町並みやたたずまい、四季の変化、人との交流、歴史や文化との出会い…。最初のうちは、はぁはぁ、ぜいぜいと坂を登った。「なんだ、この程度でバテてんのか」と励ましの合いの手が入る。そのうちに歩くリズムが良くなり、風が心地よく吹き抜け始める。そして自然とまちが立ち上がってくるのだった。

 函館は初秋が1番いいという。空気が澄んでいるので、夜景も靄がかからずすっきり見えた。滞在中は市電を有効に使い、ひたすら歩いた。ガイドブックで、映画監督の森田芳光さんが「大町がいい」とコメントしいていたので、市電で終点の「どっく前」まで行き、大町から外国人墓地、船見町、元町界隈と函館山の裾を横断するように歩いた。疲れると坂上からまちを眺め、しゃれたカフェでひと休みした。20日の宿も町歩きで見つけた民宿になった。しょうしゃな造りだったが、東北訛りのおばさんが温かかった。なにか、自分が寅さんになった気分だった。

 旅に出ると、そのまちといわきを重ね合わせることが多い。異国情緒が豊かな港町・函館。そして、いわきの港町・小名浜。その大きな違いは、古い魅力的な建物が活用され、息づいていること。いわきの場合、素材はあるのだが生かすことができない。それは何なのかと思う。

(安竜 昌弘)

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