186号 コムタビチュード(2010.11.30)

画・黒田 征太郎

いつも通り歩きつづける強さ

 コムタビチュード

 長谷川きよしさんの持ち歌に「コムタビチュード〜いつも通り」という曲がある。そもそもは日常を淡々と歌うシャンソンだが、ポール・アンカがこの曲に独自の詞を付け、「マイウエイ」としてフランク・シナトラに贈ったために、こちらの方が有名になった。きよしさんが何年か前からコンサートで原曲の訳詞で歌うようになり、にわかに脚光を浴びている。そのきよしさんが22日夜、バー・クイーンでコンサートを開いた。そのあと、ほんの少しの時間だったが旧交を温め合った。
「何年ぶりかな。まだ新聞続いてるの」。きよしさんが茶目っ気たっぷりに言った。6年前にインタビューし、その後1回会っているから、4、5年ぶりのような気がする。あれから随分忙しくなったようだが、まったく変わっていない。フラットでフランクだ。
 つい最近ヨーロッパツアーを行い、イギリス、フランス、ドイツを回った。20日間で8ステージ。ハードで、観光なんてとんでもなかった。パリで「KIYOSHI!」と外国人のイントネーションで呼び止められた。なんと、「灰色の瞳」を作ったウニャ・ラモスさんだった。もともとはアルゼンチンのアーティストだが、いまはフランスに住んでいて、わざわざコンサートに来てくれた—。ステージでそんな話を披露してくれた。
 きよしさんの立ち位置は、6年前とまったく変わっていない。ライブを基本に、自分の歌を聴きたい人がいれば、どこへでも行く。いい歌を歌うためには妥協せず、そこにとどまらない。体調を管理し、テクニックを磨く。1969年に発表された「別れのサンバ」はいまでも進化を続けていて、そのときどきでギターの伴奏や歌い方が違う。そういう面でのきよしさんは、実にストイックだ。
 いまの音楽界を思う。「売ることを優先し、売れるものを生み出すことしか考えていない。業界がいいものを生み出し育てる、という意識がない」。6年前にきよしさんが、そう嘆いた状況が続いていて、中身が詰まっていないがらんどう状態。歌手の消長が激しく、業界が使い捨てしているようにも思える。小室哲哉が一世を風靡したころからメロディに個性がなくなり、どの曲も似たり寄ったりになった。
「コムタビチュード」を聴きながら、40年以上も、レベルを上げ続けて破綻することなくステージを務めてきた、きよしさんの強さを感じた。そこにはさまざまなことがあったはずだが表には出さず、「いつも通り」という思いがあったのだろう。
 大きな拍手に応え、アンコールで歌ったのは、初期の名曲「歩きつづけて」だった。

(安竜 昌弘)

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