205号 岩城町のこと(2011.9.15)

画・黒田 征太郎

「砂の器」に出てくる羽後亀田駅や龍門寺

 岩城町のこと

 テレビ朝日系で松本清張の「砂の器」がドラマ化され、2日(9月10、11日)にわたって放映された。3月12、13日に流す予定だったものが、東日本大震災の関係で半年ずれ込んだ。見てみると、かなりテレビ向けに脚色されているところが多い。つい、野村芳太郎監督の映画と比較してしまう。準備に14年かかったという映画版を超えるには、見る側を納得させる何かがないと、無理だと思う。

「砂の器」では東北弁が鍵を握る。蒲田のスナックで話していた「カメダは変わりないですか」という会話。それを聞いたホステスが「東北弁でそう話していた」と証言する。最初は人名の線で捜査するが、秋田に「羽後亀田」という羽越本線の駅があることがわかり、2人の刑事が手がかりを求めて亀田へ赴く。映画ではベテラン刑事を丹波哲郎、新米刑事を森田健作が演じている。

「亀田」は由利本荘市の一部で、合併するまでは岩城町だった。いわき市と親子都市の関係を持っている、あの岩城町。かつて磐城地方を治めていた岩城氏が、関ヶ原の戦いで徳川家康の怒りを買い、亀田に移封させられた。江戸時代は、わずか2万石の小さな大名だった。
 8月の中旬、ふと思い立って亀田を訪ねた。東北道から秋田道に入り、横手を経て岩城へ。朝、太平洋側から昇る朝陽を見て、夕方に日本海に沈む夕陽を眺めた。初めて見る親子都市の風景。長旅ではあったが、話に聞いていた岩城・亀田の地に立ち、何とも不思議な感慨に襲われた。
 市町村合併は6年前。本荘市と由利郡七町(岩城町、大内町、由利町、西目町、東由利町、矢島町、鳥海町)が合併し、由利本荘市になった。その際、岩城町の前川町長は、合併の是非を問う住民投票を行った。18歳以上の男女、永住外国人2人に投票権を与えるという、画期的なものだった。その内容は、合併そのものに賛成か、反対か。合併相手先として、秋田市とその周辺と本荘市とその周辺の、どちらを選択するか。結局住民は、県庁所在地ではなく、本荘などと手を組む方を選んだ。
「砂の器」のロケ地と思われる場所を歩いた。まず「羽後亀田」の駅。映画では駅前食堂で2人がどんぶりものを食べるシーンがある。いまではタクシー会社があるだけだ。そして、手がかりがつかめず途方に暮れて龍門寺の参道前に腰を下ろす場面。龍門寺は岩城氏の菩提寺で、歴代藩主の御廟がある。いわきにも龍門寺があるので、その関係の深さに親近感がわく。かつて城下町だったあたりはしっとりとしていて、何とも言えない風情があった。

「亀田」だと思った地名は、実は奥出雲地方(島根県)の「亀嵩」だった。その地方の言葉の発音が東北弁に似ていることがわかり、徐々に犯人が特定されていく。これを機会に映画「砂の器」を見直したのだが、カメラワークが実に見事だ。松本清張の鉄道やダイヤに対するこだわりが見事に映像化されていて、懐かしい気持ちにさせる。今西刑事役の丹波哲郎にとっても、代表作の1つだと思う。

 それにしても、合併した「由利本荘」というまちは、まさに寄せ集め感が抜けず、ピンと来なかった。それまでの歴史や文化が薄まり、埋没してしまうのだろう。その感覚は、当然いわきにも帰ってくる。東日本大震災から半年が経過し、いわきはこれからどんなまちになっていくのか、いったん立ち止まって、それぞれの地区が真剣に考えるチャンスだと思う。合併によって無理になくされてしまったもの、つくられたものをよく検証し、どうするか決めるべきだ。

(安竜 昌弘)

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