文化系おたくの意地を見せてやれ
高校のころ |
高校時代、映画同好会に入っていた。いや、正確に言うと自分たちでつくった。2年生の時だったと思う。いま思い返してみると、顧問の先生さえいれば、同好会は自由にできた。仲間と適当に同好会の規約のようなものを作り、優しそうな化学の先生のところにお願いに行った。先生は二つ返事でOKしてくれた。
1年生の時は、応援団の練習がいやで軟式テニス部に入っていた。運動部の生徒は応援の練習に参加しなくてもいい、という決まりがあり、あれこれ考えて何となく楽そうなテニス部に入ったのだ。それほど応援の練習がいやだった。
中学校の時はバスケットボールをやっていたのだからバスケ部に入ればいいものを、練習のきつさを知り尽くしていた。でも入ってみたら、軟式テニス部も結構つらかった。それにまったくテニスの経験がなかったから、お呼びでなかった。お客さん扱いが続いた。結局1学期しか持たず、帰宅部になった。
何がきっかけで映画同好会をつくったのか、思い出せない。部員はせいぜい7人で、みんなで映画を観に行っては、帰りにお茶を飲みながら感想を言い合ったり、ノートに書いて回覧していた。
そんなさえない同好会が、少し注目されることが起こった。校内文化祭で予算がついたのだ。みんなで話し合い、映画上映会を企画した。視聴覚の先生に相談して、映画フィルムを貸してくれる業者を教えてもらい、リストをもらってきた。
交渉に行った部員によると、おじさんがレンタル料をおまけしてくれたばかりか、届けてくれるという。いろいろ考えた末に、上映作品を「男はつらいよ フーテンの寅」(森崎東監督・シリーズ3作目)に決めた。この映画が封切られたのが1970年、校内文化祭は1972年だったから、比較的新しいものを選んだのだと思う。
ところが上映直前に「待った」がかかった。同好会の顧問ではなく、頭の固い担任教師に呼び出されて「どうして喜劇にしたのか」と詰問されたのだ。ムッときて「先生は、『男はつらいよ』を観たことがあるんですか」と逆に質問した。すると「ない」と言う。これ幸いとばかり、『男はつらいよ』がいかに庶民に支持され、映画としての評価が高いかを語り、「いい機会ですから、先生も観てみてください」と押し切った。最後には「お前がそんなに言うのなら」と、許可してくれた。
そして、校内文化祭当日、映画同好会の2回にわたる映画上映は押すな押すなの盛況となり、溜飲を下げた。面目も保った。
最近、DVDで「桐島、部活やめるってよ」を観た。朝井リョウの原作を、吉田大八が見事に映画化した。高橋優が歌う主題歌「陽はまた昇る」もいい。映画のロケ地は高知だそうで、地方の高校生活の雰囲気が出ていた。
映画のシーンで、「おたく」の集合体とも言える映画部の部室が登場する。狭い部屋に暗そうな高校生たちが、ぎゅうぎゅう詰めになっている。みんな、それぞれにこだわりを持っていて、自分の世界で生きている匂いがする。校内でほとんどの生徒が知っている目立つグループと、存在さえ知られていないような、おたくグループ。映画ではそれぞれの視点、時間で多重的に1日が表現されていく。その手法が、現実の高校生活を思い起こさせる。実にリアルだ。
そして、目立たずさえない高校生だった自分は、神木隆之介や前野朋哉が演じるストイックに趣味の世界に没頭する文化系おたくたちに、つい感情移入をしてしまう。前野が演じる映画部員が、校内アイドル気どりの女子についてこう言う。
「おれが監督になったら、あんなやつ絶対使わないから」
意地のひと言だった。
(安竜 昌弘)
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