253号 楽天の快進撃(2013.9.15)

画・黒田 征太郎

ひいきチームの勝敗に一喜一憂しながらビール

 楽天の快進撃

 プロ野球、東北楽天ゴールデンイーグルスのリーグ優勝が現実味を帯びてきた。球団創設から9年目。負けることが当たり前だったお荷物球団が、ここまで成長した。東北をフランチャイズとする地域に根ざしたチームだけに、日本シリーズでも勝ってなんとか日本一になってもらいたい、と思っている。
 楽天が誕生する前、セ・パ12球団で日本一になったことがなかったのは、近鉄バッファローズだけだった。日本シリーズで巨人に3連勝しながら4連敗したこともある。その近鉄にオリックスとの合併話が持ち上がった。オーナーサイドの一方的なごり押しだったために、選手やファンが反発した。そのときに、分配ドラフトでの移籍を拒否した岩隈久志投手などを核に、自由契約選手や無償トレード選手などを集めてなんとかチームにした。まるで水島新司の東京メッツのような球団、それが楽天だった。
 近鉄は「オリックスバッファローズ」とニックネームだけは残ったが事実上消滅し、その魂は寄せ集め球団ともいえる、楽天に引き継がれた。だからこそ、楽天の優勝には意味がある。

 生来へそ曲がりで、アンチ巨人を貫いてきた。基本的には阪神好きで、負けても負けても応援する。かつて江夏がつけ、現在はクローザーの福原がつけている背番号28に特別な思い入れを持ち、勝ったときに至福の喜びを感じる。これは弱いチームを応援しているものでないとわからない。巨人ファンは負けるといらいらするが、阪神や楽天ファンは負けることが日常だから、いらいらなどしない。敗戦のなかから、いい材料を見つける。それが楽しみでもある。
 ところが今シーズンは、阪神、楽天とも調子がいい。特に楽天はマジックを点灯させ、2位以下のチームを引き離して優勝街道をばく進している。特に、大リーグのドジャースなどで活躍した、地元出身の斎藤隆投手の投球がいい。しなやかで気迫がこもっていて、わくわくする。
 楽天躍進の礎は野村監督がつくり、それを星野監督が開花させた。野村さんが漢方薬なら、星野さんは劇薬。時間をかけてじっくり育てた野村さんのチームに星野さんが刺激を与え、活性化させた。与えられた戦力を育てて工夫しながら徐々に力をつけていった野村さんに対して、星野さんは新しい血を導入して選手に危機感を持たせ、負けじ魂を注入していく。実に対照的だ。
 阪神のときも、野村監督が土台をつくり、それを引き継いだ星野監督が、力を持ちながら縮こまっていた選手たちに自信をつけさせて、ダメ虎をリーグ優勝へと導いた。でも、日本シリーズでは勝てなかった。
 思うに星野さんという人は選手起用が我慢強く、試合で経験させて若手を育て上げるところがある。だから一人前になるまでは失敗しても使い続ける。そのやり方がリーグ戦に向いている。しかし、短期決戦の日本シリーズやオリンピックでは、温情があだになってか思うような成績を上げることができていない。
 中日でも阪神でも北京オリンピックでも、思い通りの戦いができず、頂を見ることができなかった。長丁場のペナントレースを制しても、短期決戦のクライマックスシリーズ、日本シリーズが待っている。「楽天日本一」のかぎは、星野監督が、これまでの反省に立って選手をどう使い、どんな戦い方をするかに、かかっていると思う。
 勝っても負けても心を寄せて応援するのが真のサポーターであり、ファンだという。ひいきチームの勝ち負けに一喜一憂しなが冷えたビールをぐいと飲むのも、悪くない。

(安竜 昌弘)

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