

ときに旨くときに苦い人生のような味
ビールのこと |
暑い日が続いている。福島にいると、ただでさえ腹に据えかねることが多いというのに、世情も混沌としている。長崎県の佐世保市で高校1年生の女生徒が同級生の女子を殺し、遺体の一部を切断した、というニュースは、さらに気を重くさせた。何がどうして、こうなってしまったのだろう。
本屋を覗いていたら『アンソロジー ビール』(PARCO出版)という新刊に目が止まった。時代を超えて41人の作家によるビールエッセイが収められている。敬愛する川本三郎さんの「駅前食堂のビール」や詩人・長田弘さんの「ビールは小瓶で」も入っている。ビール好きを自認している身としては、生き方の達人たちのうんちくを目で追うのも心が和む。
「ビールはのどで飲む」ということを教えてくれたのは、いまは亡き助川隆一郎さんだった。お気に入りの居酒屋のカウンターに座って乾杯すると、みるみるジョッキが空いていく。まさに駆けつけ3杯。味わっている暇などない。そんなつきあいを続けていたら、いつの間にかビール好きになっていた。
「昼ビール」の癖は、川本さんの影響が大きい。「町歩き」「駅前食堂」「ビール」は川本さんの3点セットで、先日も連載コラムに「磐越東線の小野新町駅に降りて散策し、小さな食堂でビールを飲んだ」と書いていた。
いわきは車での移動が多いのでなかなかできないが、電車で行く旅先だと話は別。適量のビールは胃を刺激して食欲をそそる。地ビールを探して味比べをする楽しみもある。
こだわりというほどのものではないが、薄いピルスナーグラスをよく冷やして飲むと味が引き立つ。晩酌の定番はサッポロ黒ラベル。夜の町はプレミアムモルツが主流で、サッポロの生を置いているところが少ない。サッポロ派の意地から家では黒ラベルと決めている。
上野駅構内に「森香るBAR」があり、帰りの電車の時間あわせに使う。カウンターに座って、必ずビールとソーセージを注文する。さまざまな人生が行き交う店で飲むビールは、そのときどきで旨かったり苦かったりする。
(安竜 昌弘)
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