好みの映画古書店とジャズなじみの居酒屋
豊かな日常 |
いわきには映画館が1館だけある。いわき駅前の「ポレポレいわき」。まさに最後の砦なので、映画好きとしては応援しないわけにはいかない。
館主の鈴木修典さんは「ドル箱は子ども向けアニメで、洋画が弱い。駅前館なので大人の固定映画ファンの支持を得ていかなければ」と話しているのだが、現実的にはその思いと上映ラインナップがマッチしていない印象がある。
22日に終わった「ポレポレ映画祭」の会場で感じたことがある。入場者の大部分が60歳以上、しかも熟年夫婦が多いのだ。時間にゆとりがあり、いい時間を過ごしたいと思っている人たちなのだと思う。
そうした人たちからよく聞くのは「時間が空いたので映画でも観ようと思ったが、好みのものがなかったのでやめた」という声だ。見たいと思っていた映画がかからないので、DVDを借りることが多いという。
では、どんなものを好むのか。団塊の世代を中心とする熟年層は、ヌーヴェルヴァーグに影響を受け、アメリカン・ニューシネマなどを観てきているので、目が肥えている。一般向けではない渋めの作品と出会いたいという意識が強く、新しいものに対する興味もある。そこで映画館側が何を提示するのかが、大きいのだと思う。
車中心のいわきにとって、駅前にある映画館のハンディは大きい。駐車代が余計にかかるし、面倒だ。それなら買いものがてら車を飛ばして茨城県のシネコンに行った方がいい。それが若者たちの意識なのだろう。でも熟年層が優先するのは映画を見終わったあとの充足感。それを求めて映画館に足を運ぶので、いい映画を観られるのなら、少しのリスクなど苦にならない。映画館側にとっては、そこが狙い目だと思う。
いわきはしっとりとした大人の街であってほしいと、ずっと思ってきた。好みの映画を観て、古本屋をのぞいて、ジャズ喫茶に寄る。そしてなじみの居酒屋で軽く1杯。そんなありきたりだが豊かな日常がほしい。
(安竜 昌弘)
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