

選手生活が終わっても人生は続く
スポーツ考 |
中学時代、バスケットボール部に入っていた。身長も運動神経もやる気も、みんなそこそこ。何となく練習して、たまに試合に出してもらっていた。いま思えば、特長がないうえに意識の低い、その他大勢の部員のなかの1人だったと思う。
記者になってスポーツを担当した。もともとスポーツ好きだったから、願ってもなかった。高校野球を中心にさまざまな競技を取材した。夏は強い日差しのために、顔が真っ黒になった。
取材を深めれば深めるほど、単に勝ち負けを追うのではなく、結果に至る過程に目が行くようになった。選手一人一人、監督、コーチ、さらに学校や保護者のあり方。そうしたものが連なり、影響し合ってチームのかたちができていく。
NHKBS-1の「奇跡のレッスン 最強のコーチと子供たち」を楽しみに見ている。そのなかで、元NBA選手のマグシー・ボーグスさんが、東京の公立中学校バスケットボール部を1週間指導する、という放送があった。ボーグスさんは160cmのポイントガードで、世界最高峰のプロリーグで14シーズンプレーした。
ボーグスさんの言葉。
「試合では反射神経が重要。考えている時間はほとんどないので、セカンドネイチャー(本能的な動き)になるまで鍛える」「運命は自分でコントロールしなければならない。でも自分がそれを信じないと意味がない。そのマインドセット(意識づけ)が大事なんだ」
驚くほど小さいボーグスさんが「NBA選手になる」と言っても、だれもが「無理だからやめろ」と言った。でも実際にプロ選手になり、素早い動きでマイケル・ジョーダンのボールをたびたび奪った。それがプレーヤーとしての武器になった。
もう1つ、印象深い言葉を。
「アメリカでは勉強ができないとスポーツをさせてもらえないんだ。バスケは限られた時間しかできないが、人生はずっと続いていくからね」
雑草だらけのグラウンド、ライン引きまで保護者がする中学生の大会運営。なにかがおかしい。早い段階からスポーツエリートになると、周囲に段取られて一本道が敷かれていく。スポーツのためだけのスポーツではいけない。スポーツを通して何を学ぶのかが、大事なのだ。人生の汗であり、糧になるスポーツであってもらいたい、と切に願う。
(安竜 昌弘)
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