

あきらめずへこたれず希望の欠片を探す
ひいき魂 |
映画「のだめカンタービレ」(最終楽章前編)に印象深いシーンがある。天才指揮者の呼び声が高い千秋真一(玉木宏)がル・マルレー・オーケストラの常任指揮者になる。かつては「ヨーロッパの名門」として知られていたオーケストラも資金難に苦しみ、楽団員の士気もレベルも下がってぼろぼろの状態だった。
定期演奏会は何とか継続しているのだが、あまりの演奏のひどさに常連客や支援者が離れ、客席はがらがらの状態。そうした中で、いつも同じ席に座っている初老の男性がいる。きちんとチケットを買い、いつもの席に座る。でも、「聴くに耐えない」とばかり、居眠りを始める。
常任指揮者としてオーケストラのレベルアップを託された千秋は、あきらめムードが漂いすべてが後ろ向きの楽団員を刺激するためにオーディションを行い、競争意識を高めてレベルを上げていく。そして新生マルレーは、バッハの「ピアノ協奏曲第1番」、チャイコフスキーの「交響曲第6番悲愴」などを演奏し、聴衆から大喝采を受ける。
ここで気になるのは、いつも眠っている初老の男性。いつものように期待することもなく寝始めようと思った瞬間、洗練され思いがこもった団員たちの音に目を見張り、演奏に吸いこまれる。そして愛し続けてきたマルレーの復活に賞賛と喜びの拍手を送り続ける、というシーンが映し出される。
「のだめカンタービレ」はある意味、漫画を原作にしたたわいのないドタバタドラマだが、この初老の男性が出てくる場面が特に印象に残っている。それが欧米のクラブ文化のあり方、本当に地元のチームやオーケストラを応援するという精神を見せてくれているからなのだと思う。
最下位に沈んだまま、上昇の気配が見えない東北楽天イーグルスのことを思う。5月25日現在で8連敗。シーズン序盤は競り負けて惜しい試合を落とす、という感じだったが、このところは手も足も出ない負けが続いている。早いうちに失点し、追加点をとられてベンチに「きょうもだめか」というあきらめムードが漂う。まさに悪循環。エース・則本が投げても同じで、首位・ソフトバンクの背中は遙か彼方だ。
でも、見続ける。そして、ほんの少しでもいいから、目を凝らして希望のかけらを探す。おそらく、コボスタ宮城に通う楽天ファンも同じ気持ちだろう。チームがだめなときこそ愛着がわき、情が深くなる。だから勝った時の喜びは格別だ。あの「のだめ」の初老の男性のように。
(安竜 昌弘)
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