まちの良さとは結局人の良さ
歩いているだけで出会いが生まれる
「オレの北九州」 |
黒田征太郎さんが「オレの北九州」というアートマップを描いた。発行が北九州市で、企画・制作はゼンリンプリンテックス。驚いたことに地図のゼンリンの本社は北九州で、かつて愛読していた雑誌『ラパン』の発行元はゼンリンプリンテックスだった。
どうしても実物を手に取りたかったので、ゼンリンに連絡をして取り寄せた。門司港や平尾台、若戸大橋、皿倉山など北九州市の11スポットが黒田風に描かれていて、自筆の短文もついている。普通のガイドマップにはない思い入れと温かさがあって、とても気に入っている。
ニューヨークを引き揚げ、旅人としてふらっとやってきた小倉が気に入り、門司の住人になった黒田さん。北九州の良さは人だという。
「住んでみてわかったこと、おもったことは、ヒトらしい人がいっぱい居ることでありました。ヒトらしい人とは、ウマイモンが安く食えて、思ってることが大きな声でしゃべれる。ようするに元気ということですよね」と「あとがきみたいなこと」で書いている。面白い人たちが生きている場所は、ただ電車に乗ったり、ぶらぶら歩いているだけでも出会いがあるという。
北九州に住み始めて毎晩飲み歩いていた黒田さんは「nagaya」というバーのカウンターが気に入って、そこで絵を描いていた。それがきっかけで客たちと話すようになり、北九州芸術劇場や北九州空港に絵を描くことになる。さらに門司港にアトリエを借りて北九州に根を下ろしていく。
黒田さんお勧めの北九州観光コースは、門司港から各駅停車で折尾まで行く。洞海湾を巡るかたちになるので右側に座るとずっと海が見える。折尾で乗り換えて若松へ向かい、戸畑までは渡船で行くのが一番だという。「北九州には、東京が忘れてしまった日本的な東アジア的な何かが残っているんじゃないか」とも話している。
いわきに住んでいる人間としては、北九州市には同族意識を感じている。人口95万6千人の政令指定都市なので、34万人ほどの中核市であるいわき市とは規模が違いすぎる。ただ、いわきが合併する3年前に5市が合併したこと、若松はかつて炭砿で栄え、工場地帯があることなど、共通点が多い。そして何よりも合併都市としての統一イメージを持つことに苦しんできた歴史も、他人事ではない。でも市が生まれて半世紀以上が経ち、「それぞれがそれぞれでいい。いいところを磨いて伸ばす」という感じになっている。これは、いわきも同じだ。
さて黒田さんに習って、独断と偏見に満ちた「オレのいわき」を考えてみる。白水阿弥陀堂、中之作港、差塩の宇宙岩…。うーん、海岸線は津波にやられ、山は放射能の影響で荒れ放題。せめて人間が良ければいいのだが、それも自信がない。「オレのいわき」は黒田さんのような外の眼に委ねるしかないのかもしれない。
(安竜 昌弘)
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