342号 屈しない(2017.5.31)

画・黒田 征太郎

国家が心の中に土足で踏み込むなんて許さない

 屈しない

 「共謀罪」が衆議院を通過した。「テロ対策」を錦の御旗にしているが、実行しなくても計画段階で摘発されてしまう法律。これが成立すれば、運用段階でどんどんエスカレートし、国のやり方に異議を唱えただけで捜査の手が及ぶことが、考えられる。でもみんな、身につまされないと実感がわかない。それが歯がゆい。

 NHKBSで「日活ロマンポルノ」を扱ったアナザーストーリーが再放送された。経営難の日活が起死回生のためにポルノ路線に舵を切り、大当たりしたが、「わいせつ」を理由に3作品が摘発されてしまう。ときは1972年(昭和65)。学生運動が下火になり、反権力の思いが行き場を失っていたころだ。
 当時、「わいせつとは」をめぐって闘ったのが、「ラブ・ハンター恋の狩人」を撮った山口清一郎監督と主演女優の田中真理さん。8年半にわたる裁判で無罪を勝ち取ったが、山口さんは途中で日活を追われ、田中さんは28歳で女優を引退した。
その田中さんがブラウン管に登場し、「わいせつ裁判」を語った。65歳になったという。でも「反権力のアイドル・田中真理」は毅然としていて、あのころのままだった。
「わいせつかどうかは人の心の問題。その心の中に国家が土足で踏み込んできて裁くなんてことは、ナンセンスです。『わたしの心の中にまで、お上が入ってくるの』って思ってましたね」。田中さんはきっぱりと言った。
 当時の山口監督のコメントもふるっている。「わいせつ罪に問われながら、およそわいせつとは距離のあるものを撮って恥じている」。ただ、その後は映画を撮る機会には恵まれず、2007年に69歳で亡くなった。一方の田中さんも、裁判をしたことで使う側が自主規制するようになり、出演機会が激減していく。
 「だれも何も怨んではいません。あえて言えば感謝ですかね。挑んで、受けて立って、勝ちを取った。しかも作品が残ったじゃないですか」
 実に潔い。その言葉から、プライドと誇りを感じた。
 
 さて共謀罪。自分の生き方や信念を貫き通して国家にあらがうことができるのか。自分も含め、一人ひとりにそれが問われている。

(安竜 昌弘)

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。