これはもう業としか言いいようがない
晩友 |
黒田征太郎さんから突然電話がかかってきた。中村敦夫さんが朗読劇をすることを知り、居ても立ってもいられなくなって携帯電話を手に取ったのだという。「チラシを見て中村さんの思いに魂が揺さぶられましてね。絵を描かせてください」とも言った。
黒田さん・78歳、中村さん・77歳。同世代人同士なのだが、親しく話したことはない。すぐ中村さんに伝えると「いいですよ」と快諾してくれた。ただ観客には、黒田さんが来ていることは伏せ、朗読劇が終わってから舞台に上がってもらうことにした。「絵もそのときに披露しよう」ということになった。
中村さんと「日々の新聞」との交流は創刊のころからだから約15年、黒田さんとは震災がきっかけで、6年のおつき合いになる。2人とも名前が広く知られているのだが決して権威的でなく、自分の立ち位置を外さない。いわゆる女々しくない男前で、群れないところも同じだ。ともに体制とは距離を置き、一本どっこの精神を貫いているので、ひとり姿がよく似合う。
「山頭火」という共通点もあった。中村さんは今回の「線量計が鳴る」の前に、「山頭火物語−鴉啼いてわたしも一人」という自作自演の朗読劇を全国で公演している。
「山頭火の句はほとんどが駄作だけれど100ぐらいはいいのものがある。『鉄鉢の中へも霰』なんていう句は、雲水行脚での厳しい寒さが目に浮かぶ」と中村さんが話すと黒田さんが、「山頭火のことも句のこともほとんど知らずに『黒田征太郎 山頭火を描く』という本を出したことがあります」と、苦笑いをした。
さて朗読劇「線量計が鳴る」の現場。黒田さんは「中村さんの邪魔にならないように」と客席の左後ろに陣取り、35枚の絵を描いた。近藤等則さんのトランペットに呼応するときのように、中村さんの気迫にあふれた方言の台詞回しを全身に受け、ぐいぐいと手を動かした。そして「中村さんに描かせてもらいました」と感謝した。
「これはもう、業としか言いようがないよ」と中村さんが言い、黒田さんもそれを自分に置き換えて心のなかで頷いた。業と向き合う新たな晩友同士が輝いていた。
(安竜 昌弘)
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