356号 安藤忠雄さんのこと

画・黒田 征太郎

産んだら育てる 続ける みんなで考える

 安藤忠雄さんのこと

 上京したので六本木の国立新美術館に寄って「安藤忠雄展」を見てきた。「挑戦」というタイトルがついている。会期末の土曜日だったこともあり、入場までに20分待たされた。壁面に十字架が切ってある「光の教会」が再現されていたのだが、建築費が本物を建てたときよりかなりかかった、と聞いて驚いた。ひととおり見て感じたのは、眩しいほど一途で圧倒的なプロの仕事を見せてもらった、ということだった。この充実した感覚は、安藤さんを好きだとか嫌いだとか、やり方が気にくわないとかの次元を、遙かに超えている。うれしくなった。

 安藤さんとは12年前の春に1度だけ会っている。平豊間の海辺にある絵本美術館「まどのそとのそのまたむこう」を安藤さんが設計したことが縁で講演会が開かれ、企画を頼まれた。ぼぼ1日、安藤さんのそばにいたのだが、安藤さんは無邪気で茶目っ気があり、とてもシャイだった。あとで、黒田征太郎さんととても親しいことを知った。
 安藤さんは講演で「学歴社会が崩れてきたとはいえ、依然としてあります。地方の時代といっても東京一極集中は変わっていません。私も地方の人間です。大阪は言ってみれば大きな地方都市なんです」と言った。その状況はいまも変わっていない。そして「私は大阪に恩返ししたいんです。建築とは社会との関わり合いなんです」と言い、いまも大阪にこだわって仕事をしている。

 展覧会を見ていると、安藤さんがいかに自然を大切にし、自分の作品を自然と調和させようとしているかが、よくわかる。そこに厳然とある自然や景観を壊さないように、先々建物が周りと馴染んで自然に還るように計算しているのだと思う。それは「あるものを生かしてないものをつくる」という発想に通じている。だから、それぞれの作品が周りと響き合い進化し続けているのだろう。つくりっぱなしでないところが、安藤建築の特徴だ。
 丸裸になってしまった島にオリーブを植え続けたり、自分がかかわったシンボル的な建物の周辺に桜を植えて並木をつくったり、積極的に子どもたちのための建物を設計したり…。そうした活動は、①産んだら育てる②続ける③みんなで考える、という安藤さんの約束とつながっている。
 会期中に安藤さんは作家の林真理子さんと週刊誌で対談した。そこで「古民家を利用して東北に子ども図書館を3つつくりたいんです。お金はあるんですよ。基金がね。でも思うようにいきません」と話している。そのうちの1つを、なんとか、いわきにつくることはできないものだろうか。

  安藤さんは12年前の講演で「今回設計したいわきの絵本美術館は、子どもたちが自分の場所を自分で考えられるように、自分の場所を見つけられるようにして欲しい、と思って設計しました。ただ単に箱をつくるのではなくて思いがいっぱいある建物、言葉じゃなくて心の話ができ、心を動かされる建物にしたい、と思ったんです」と話した。そこに建築家・安藤忠雄の真骨頂がある。

 絵本美術館はコンクリートの打ちっ放しと大きなガラスの窓でできている。広い窓からは太平洋が広がり、子どもたちは階段に座ったり寝転んだりして、どこでも自由に本が読めるし、かくれんぼうだってできる。光がさんさんと降り注ぎ、その日の天気によって海の色が変わる。その建物は子どもたちの創造を膨らまし、より深く絵本の世界に誘ってくれる。
 また安藤さんと会って情熱に触れることができたら、と思う。 

(安竜 昌弘)

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