364号 ひいきする心(2018.4.30)

画・黒田 征太郎

気持ちや人柄がまっすぐ伝わる演奏やプレーに拍手したい

 ひいきする心

 アリオスの開館10周年を記念して行われた小山実稚恵さんのピアノコンサートを聴いた。ショパン、シューベルト、ベートーヴェン。心が行き届いた気持ちのいい演奏で、小山さんの思いや人柄が伝わる、いいコンサートだった。何回もアンコールに応え、レセプションでも気さくで優しい、ありのままの実稚恵さんだった。小山さんが一番何を大切にしているかが、少しわかったような気がした。
 小山さんを気にするのは、敬愛する川本三郎さんが、小山ファンであることも大きい。若いときから川本さんが書いたものを読んで影響を受け、支持してきた身としては、そのピアノを聞いて思いを共有したい、という気持ちが強い。川本さんは小山さんのコンサートに出かけては連載コラムで報告してくれるのだが、今回は小山びいきの一端を感じることができた。
 昨年10月に母が亡くなったあと、川本さんから手紙をいただいた。そこには「肉親の死は、つらいものですが、親は死ぬことで、子供に生の大切さと、いつかは子供にも必ず訪れるその日の、心の準備を教えるのだと思います」と書かれていた。なんだか、とても気持ちが穏やかになった。その5カ月後に父が逝ったときには、自然に川本さんの言葉が浮かんできた。

 プロ野球の広島カープで活躍した衣笠祥雄さんの訃報に接し、父がカープファンだったことを思い出した。「カープは弱小球団だから、いくらいい選手を育てても、持っていかれてしまう。だから応援するんだ」と言っていた。長嶋と古葉が首位打者を争っていたシーズンは、「古葉にとらせてやりたい」と応援していた。
 衣笠さんはカープ愛を貫いた選手の一人で、そのフルスイングと全力プレーは屈託がなく、輝いていた。巨人の西本投手からデッドボールを受けて肩甲骨を折ったというのに、翌日、代打で出場し、江川投手から3球3振を食らった。それがすべてフルスイングで、試合後に「1球目はファンのために、2球目は自分のために、3球目は西本君のためにフルスイングしました。それにしても江川君の球は速かった」と話したという。入団当初の背番号は「28」。まさに心も体も鉄人(28号)だった。

(安竜 昌弘)

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