コラム書きに必要なのは喜怒哀楽の感受性
竹内政明さん |
前号の「編集室から」で竹内政明さんのことを書いた。そのあと、さらに興味がわいて本を何冊か求めた。
竹内さんは1955年(昭和30)、神奈川県生まれ。北海道大学文学部哲学科で宗教学を学び、読売新聞に入った。読売では長野支局を経て経済部で財政や金融などを担当。1998年から編集委員になり、2001年から16年にわたって一面コラム「編集手帳」を書いたが、体調不良のため退いた。
この経歴で興味がわくのは、なぜ北大の哲学科に進んだのか、さらにジャーナリストを志し、読売新聞を選んだのはどうしてか、ということである。
著書によると、大学受験では2度、合否電報を受けている。1度目は「ポプラナミキユキフカシ、サイキヲイノル」、2度目が「クラークホホエム」。どうしても北大に入りたかったのだろう。結局、北大も読売も理由はわからないままである。
著書のなかに『名セリフどろぼう』がある。これが泣かせる。かつて、わくわくしながら見たテレビドラマの名セリフが50音順で紹介されている。脚本家を見ると、倉本聰、山田太一、市川森一、向田邦子、中島丈博、早坂暁、という名前が並んでいる。ドラマは「前略おふくろ」「岸辺のアルバム」「傷だらけの天使」「冬の運動会」「新・夢千代日記」など。庶民のおかしさや悲しみが1行にあふれていて、ほろりとする。
素材(引用)を探して料理(文章にまとめる)をする。そのセンスがよくて、心に沁みる。そのバックボーンが権力ではなくて、弱い者に対する眼差しだからこそ、多くの人が支持するのだろう。それが「読売新聞の1面を下から読ませる」と言われた所以なのだと思う。ジャーナリストの池上彰さんも「(竹内さんがコラムを書かなくなったのが)残念でたまりません。もし竹内さんだったら…と思ってしまいます」と書いている。
竹内さんと同じ年生まれの著名人はプロ野球の江川卓さんや作家の佐藤正午さん、女優の伊藤蘭さんなどで、「シラケ世代」とか「ポスト団塊」と呼ばれた。1951〜1955年がそれに当たり、そのあとに「新人類世代」がやって来る。
竹内さん曰く、コラム書きに必要なのは喜怒哀楽の感受性で、世の不正に対しては2倍も3倍も公憤を感じなくては務まらないのだという。そうありたいと思う。
(安竜 昌弘)
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