376号 谷口楼の閉店(2018.10.31)

画・黒田 征太郎

じわりじわりと壊れてゆくまち

 谷口楼の閉店

 割烹谷口楼(平字二町目)が9月で閉店した。明治10年に創業し、140年歴史を刻んできた老舗だけにとても寂しい。そして残念だ。
 平の歓楽街・田町が賑やかだったころは芸者置屋や待合が軒を連ね、夜の料亭文化を形づくっていた。石炭産業や遠洋漁業が盛んで、田町界隈を芸者さんが往来し、それは華やかだった、と4代目女将の谷口籌子さんが話していた。
 それから時代の変遷とともに石炭や漁業が衰退し、民間企業や役所の接待で息をついていた料亭もバブルがはじけて、客が激減する。と同時に芸者さんたちも消えていった。
 たまに谷口楼を利用していた。最後は8月の末で、5代目女将の具子さんと少し話をした。「90歳になった母とゆっくり暮らしたいと思ったんです」と心情を打ち明け、「営業的には何とかやっていけたのですが、従業員が集まらなくて…。洗い場に立ったこともあるんですよ。疲れました」と内情を吐露した。いわきのいま、がここにもある。
 震災・原発事故、人手不足、人件費の高騰…。仕事はあるので人は欲しいが思うように集まらない。人件費のレートが上がって経営を圧迫する。まちが壊れていく。

(安竜 昌弘)

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。