380号 2つの勲章騒動(2019.1.1)

画・黒田 征太郎

捨て置けない切り返せない戦えないなんとも歯がゆい

 2つの勲章騒動

 数年前からパーフェクトTVと契約している。その理由は①地上波テレビがつまらない②でもテレビがないと寂しい−という2つに集約される。テレビはずっと空気のような存在だったせいか、スイッチはつけっぱなしにしていることが多い。
 番組契約は季節で変える。プロ野球が始まると楽天と阪神戦がすべて見られる「プロ野球セット」にし、シーズンオフは映画、テレビのアーカイブ的なチャンネルを選ぶ。このところは映画を中心に山田太一原作、田宮二郎主演の「高原へいらっしゃい」や司馬遼太郎の「街道をゆく」(NHKスペシャル)を楽しみに見ている。
 少し前、「街道をゆく」の愛蘭土紀行が放映された。そこでビートルズのメンバーがアイルランド系であることを知った。アイルランド移民はリヴァプールからアメリカをめざした。その代表がケネディ家だが、アメリカへは渡らずリヴァプールに留まった人たちもいた。ビートルズのメンバーたちは、留まった人たちの子孫だという。
 アイルランド人が吐き出すウィット、ユーモアは「死んだ鍋」(デッド・パン)と呼ばれる。その痛烈な皮肉や揶揄を受けると笑えず、かといって怒ることもできず、ただ棒立ちになるしかないのだという。
ビートルズがエリザベス女王から勲章を受勲されるという記事が出たとき、第二次世界大戦で勲章を受けた旧軍人たちが、抗議のために次から次へと返上した。それについて聞かれたジョン・レノンは「ぼくたちは人を殺してもらったんじゃない。人を楽しませてもらったんだ」と言った。さらに東京で「勲章はどこ?」と記者が尋ねると、「ここにあるよ」とコップをあげてコースターを見せ、笑った。司馬さんは「これこそ“死んだ鍋”」と書いている。
 ふと、サザンオールスターズ・桑田佳祐の勲章騒動を思い出した。2014年の紅白歌合戦で安倍首相をおちょくり、そのすぐあとの年越しライブで、紫綬褒章をズボンの尻ポケットから取り出して「オークションにかけようか」とふざけた。だれが見ても、桑田流のやんちゃなジョークだ。しかしネトユヨから抗議が殺到すると、所属事務所が桑田名で謝罪文を掲載した。なんとも、自由人・桑田らしくない対応だった。捨て置けない、皮肉で切り返せない、しかも戦うこともできない。それがいま、さらに深まっている。なんとも歯がゆい。

(安竜 昌弘)

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