390号 競馬との縁(2019.5.31)

画・黒田 征太郎

ダービーで敗れたサートゥルナーリア
その血統から紐解く日本の競馬の歴史

 競馬との縁

 14年ぶりに無敗のダービー馬誕生か、と期待されたサートゥルナーリアは4着と敗れた。皮肉なことに勝ったのが同じ厩舎のロジャーバローズで、こちらは十二番人気。角居調教師の「うれしいことと悲しいことがあって…」という談話が、関係者の複雑な心境を表していた。
 正直、サートゥルナーリアに勝ってもらいたいと思っていた。それはこの馬が背負っている血統にある。父・ロードカナロア、母・シーザリオ、父方の祖父・キングカメハメハ、母方の父・スペシャルウイークはすべて、日本の競馬場で走った。「自分が応援したり、好きだった馬の子どもや孫が目の前で走る。これこそが、ブラッドスポーツ、競馬の醍醐味でもある。
 かつては、父親のほとんどがアメリカやヨーロッパで走った馬だった。ジャパンマネーで海外の名馬を買いあさり、種牡馬にした。しかしここに来てやっと、純内国産馬の血統が着実に根を張り、本当の意味での競馬文化が日本独自のものとして、花開き始めている。今回勝ったロジャーバローズもディープインパクトの産駒だった。
 それにしても「サートゥルナーリア」という舌をかみそうな名前の意味が気になって調べてみた。古代ローマの祭りで、母の名、シーザリオからの連想だという。「シーザリオ」はシェークスピアの「十二夜」でヒロインのヴァイオラが男装したときに使った名前。その期待を裏切ることなく6戦5勝と活躍し、G1のオークスとアメリカンオークスを勝った。競走馬としてだけではなく繁殖牝馬としても優秀で、次々と優秀な仔をターフに送り出している。
 50年来の競馬ファンなのだが、馬名一つとっても時代の変遷を感じる。かつては「シンザン」や「タケシバオー」「ハクセツ」「コダマ」と漢字にできる名前が多かったが、最近は世界に通用するようにとの意識からか、実にインターナショナルだ。それは騎手にも言えていて外国人騎手が増え、競馬界の閉鎖性が少しずつ変わってきているように感じる。
 実は先日、JRAの機関誌「優駿」をすべて処分した。このところは買っていなかったとはいえ、信じられないほどの量があった。断捨離のつもりでエイヤッと手放した。でもサートゥルナーリアの今後が気になるし、新しい馬との出会いも楽しみ。まだまだ競馬と縁を切るつもりはない。

(安竜 昌弘)

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