392号 心の声(2019.6.30)

画・黒田 征太郎

弱いものたちへの応援歌として響くナオミの強い歌声

 心の声

 ディズニー映画「アラジン」(実写版)を見た。評判がいいので「見なければ」と思い、字幕スーパーの上映時間に合わせた。いわきは吹替版の方が入りがいいそうで、早くしないと見る機会が減ってしまう。「いい年をしてディズニーかい」と言われそうなのだが、そもそもディズニーアニメで育った世代だし、このところのディズニー映画は捨てたものでもない。「アラジン」も実に痛快だった。
 一番のお気に入りは、王女ジャスミン役の魅力的な若手女優。エンドロールで「ナオミ・スコット」という名前を確認して調べてみたら、次から次に情報が出てきた。父がイングランド人、母はウガンダ出身のインド系移民で、ともに牧師だという。ジャスミンが歌う「心の声—スピーチレス」は実際に本人が歌っていて、立場が弱い人たちやマイノリティーへの応援歌として聞くことができる。

 ただ黙っていることが/賢い生き方と教えられてきたけど/間違いとわかった/いま、声を上げよう/心の声を

 混血のナオミ・スコットが「いまこそ自由の扉を開け、はばたいてみせる。何もだれも恐れない」と口を大きく開けて歌う。それが偏狭なナショナリズムなどによる窮屈さを吹き飛ばしてくれるような気がして、スカッとした気持ちになった。
 思えば、大坂なおみ(女子テニス)、サニブラウン・アブデル・ハキーム(陸上)、八村塁(バスケット)と、混血選手たちの世界を舞台にしての活躍が目につく。「ペナン人(西アフリカ)の父と日本人の母のもとに生まれた八村選手には、思春期の心をえぐられる経験も少なからずあった」と朝日新聞の「天声人語」が書いている。
 それを突き破ったのは、自分の力を思う存分試すことができる実力本位の世界をめざす、という高い目標と強い意志で、ずっと「NBAをめざせ」と言い続けていたのが、富山で外装工事会社を営む中学時代の外部コーチ、坂本穣治さんだった。
 「固定観念にとらわれるのではなく、多様な価値観を認め合おう」という言葉をよく聞く。でも現実的には、さまざまな差別や排除の風潮が消えない。相手を人間としてではなく、外見や出自で決めつけ、レッテルを貼って仲間はずれにしてしまう。それを集団でやるから始末が悪い。そんなときは黙らずにみんなで心の声を上げて叫ぼう。ナオミ・スコットはそう歌っている。

(安竜 昌弘)

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