398号 忍者ラグビー(2019.10.1)

画・黒田 征太郎

攻める防御 パスでつなぐ気迫と以心伝心

 忍者ラグビー

 ラグビーワールドカップが開かれている。最大の関心事は地元・日本の8強入り(決勝トーナメント進出)だが、どうだろう。前回は予選リーグで南アフリカなどを下して3勝を上げたのに、予選突破には至らなかった。
 NHKBS1で50年前の日本チームの戦いぶりを見た。監督は大西鉄之祐(早稲田OB)。接近・展開・連続を徹底してイングランドやオールブラックスジュニア(NZ)と互角の戦いを展開した。エディー・ジョーンズが率いた4年前のチームはその変型で、大西が注入した精神は変わらない。
 テーマはともに、素速くてミスのない日本らしいラグビー。体格が勝る外国人と同じラグビーをやっていたら勝てるはずなどない。個ではなく15人全員で束になり、工夫してかかる。力ではなくて知恵とスピード、というわけだ。
 4年前、日本のコーチたちは南ア戦の審判の癖を徹底的に分析して反則を減らした。逆に南アはオーバーザトップやノットリリースザボールを厳しくとられた。しかも抗議して心証を悪くし、さらに反則を増やした。そのたびに五郎丸がペナルティーキックを確実に決めて、食らいついていった。事前の準備や研究が功を奏しての金星だった。
 エディーは、イメージを忍者に置いた。日本には「柔よく剛を制す」という言葉があるし合気道だって。要は気迫とタイミングだろうか。50年前のチームは、防御で受け身にならなかった。攻める防御を徹底して精神的に圧倒し、ミスを誘った。当時のメンバーだった坂田好弘は「全員の息が合っていた。吸うのと吐くのが同じだった」と証言している。
 ボールはほとんど蹴らずにパス。しかも相手を惹きつけてぎりぎりのところで離す。できる限りボールを保持し、テンポを上げて連続攻撃を仕掛けていく。それには全員が120%の仕事をしなければならない。これはラグビーだけに限ったものではない。
 例えば、パワー全盛の高校野球。有能な選手ばかりの私立を公立が破るにはどうしたらいいのか—。私立と同じことをやっていたのでは追いつけない。一発勝負だからこそ、可能性がある。そのヒントが大西やエディーのジャパンにある。

(安竜 昌弘)

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