402号 ニューシネマの時代(2019.11.30)

画・黒田 征太郎

時空を超えてときめきがよみがえる映画「卒業」

 ニューシネマの時代

 映画「卒業」を小名浜のポレポレシネマズで見た。テレビやビデオでは何度か見ているが、スクリーンだと約40年ぶり。中学以来、ということになる。
 日本での公開は1968年(昭和43)。地方都市のいわきで、すぐフイルムが回ってきたかどうかはわからないが、見たとしたら洋画専門の銀星座(小名浜)だろうか。そのころ小名浜には銀星座のほかに東映系の金星座、東宝系の国際劇場、日活系の磐城座があった。「卒業」を見たあと田所書店のレコード売り場でサイモン&ガーファンクルのEPレコードを買った。サウンド・オブ・サイレンスとミセス・ロビンソンのカップリング盤だった。
 ベンジャミン役のダスティン・ホフマン、エレン役のキャサリン・ロスが魅力的で、そのファッションにも影響を受けた。ベンジャミンは東部(IVリーグだろうか)の大学を卒業してカルフォルニアの実家に帰って来る。ボタンダウンのシャツ、レジメンタルタイ、紺のブレザー。ときにはコーデュロイのジャケットを着ている。
 卒業記念に赤いアルファロメオを買ってもらうのだが、将来の方向性が定まらず、悶々とした日々を送っている。印象的で美しいシーンに音楽が重なり、カットが連なっていく。中学から高校、大学とアメリカン・ニューシネマの洗礼を受けた身としては特別な感慨に浸った。
 そのあと、書棚から取り出したのが、「アメリカン・ニューシネマ′60〜′70」(別冊太陽)。構成は川本三郎さんと小藤田千栄子さんで、その時代の108本が紹介されている。
 川本さんはそのなかで「1967年9月に全米で公開された1本の映画が若い観客に強烈なインパクトを与えた。『俺たちに明日はない』である。激しい暴力シーンがありながら根底には若くして死んだ2人をいつくしむやさしさにあふれていた。このときから『アメリカン・ニューシネマ』が始まった。〝彼らの映画〟ではなく〝俺たちの映画〟の時代が始まった…」と書いている。
 川本・小藤田コンビには『女優グラフィティ』『スキ・スキ・バンバン』(映画ディテール小事典)という編著もある。このかけがえのない本たちからは、映画を純粋に楽しむ精神や、片隅に眼差しを向けるディテールへのこだわりなどを教えてもらった。その小藤田さんは残念ながら昨年9月に亡くなった。79歳だった。

(安竜 昌弘)

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