

組織はいつも個人を守らない
ある区切り |
「なぜ君は総理大臣になれないのか」のパンフレットに、ジャーナリスト・鮫島浩さんが文章を寄せている。鮫島さんは衆議院議員・小川淳也さんと高松高校の同級生で、元朝日新聞記者。特別報道部のデスク時代、福島第一原発所長・吉田昌郎さんが語った「吉田調書」でスクープを主導したが、記事の内容が誤報とされて処分を受けた。50歳で早期退職し、現在はWEBサイト「SAMEJIMA TIMES」を主宰している。先ごろ、『朝日新聞政治部』を出版。権力争いと自己保身に終始する朝日の内情を実名で著した。
「池上コラム掲載拒否」「吉田調書問題」「慰安婦記事取り消し」と揺れに揺れていた朝日新聞。鮫島さんはその渦に巻き込まれ、責任をとるかたちで知的財産室へと異動させられた。朝日はその後、組織防衛と部数減の嵐に見舞われ、外に対する目を気にするあまり言論機関としてのアイデンティティーが薄まっていく。この本にはそうした苦悩、ジレンマが綴られている。
「なぜ君」のパンフで鮫島さんは小川さんの変わらない「蒼さ」に触れ、「この映画は、まさに政治とは何かを問う至高の問いである」と書いている。そして二人とも、組織や世間の常識に翻弄され、もがきながらも自分が信じた道を力強く歩いている。
「ああ、私は典型的なサラリーマン記者だったのだ。会社に依存し、会社がなければ何も発信できない、単なる会社員だった」─。孔子曰く「五十にして天命を知る」。これから書く記事一つひとつが試金石になる。
(安竜 昌弘)
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