468号 原先生のこと(2022.8.31)

画・黒田 征太郎

 

利益集団としての教団の本質を見抜かなければ

 原先生のこと

 懐かしい名前を目にした。政治学者の原彬久さん。20歳のころ、一年だけ週に一回、指導を受けた。それはゼミに入る前の準備のような教室で、「チュートリアル」と呼ばれていた。ネットなどない時代だったから、原先生のことは何もわからない。知ろうとも思わなかった。ただ、そのやりとりは刺激的で、いまも記憶のなかに刻まれている。
 まず本を読ませられる。戦後、文官で唯一死刑になった広田弘毅のことを城山三郎が書いた小説『落日燃ゆ』、さらに高坂正堯の『宰相吉田茂』…。毎週一冊ずつ本が与えられ、次の週にはそれぞれが感想や人物評などを述べて、フリーに議論することを求められた。おそらく、日本の政治体系に接することで、より深く政治を知ってもらいたい、という考えがあったのだろう。若者への、政治の種まきだったのだと思う。
 原先生は朝日新聞のインタビューで、1980年代初めに聞き取りを重ねて本にした岸信介元首相と旧統一協会との関係について語っていた。そこでは、「リアルな利害関係(利権)があるということ。公的であるべき政治が、違法か合法かすれすれの私的なものへと陥ってしまう。利益集団としての教団の本質を、これまでの活動から見抜かなければならない。宗教まがいで反社会的な行為を行う集団が利益を求めて近づくことを、権力の側は許してはいけない」と、強く警鐘を鳴らしている。
 3年生になる前、ゼミを選択する段になって、原先生の政治学教室か、もう一つの行動科学の教室、どちらを選ぶか悩み、楽な行動科学の方を選んだ。いまとなっては「後悔あとに立たず」なのだが、それも人生なのだろう。

 原先生は82歳。ということは、当時48歳で、そのころの先生を、20年も追い越してしまった。恥ずかしさが募る。

                                       (安竜 昌弘)

 

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