476号 この12年(2023.1.1)

画・黒田 征太郎

 

      空き地に広がる太陽光パネルの波
                                                      挙げ句の果てに岸田政権は原発回帰

 この12年

 

「もし震災が起こっていなかったら、うちの家族もいまとは違っていたんだと思う。でも震災は起こってしまった。もう前には絶対戻れないんだよ。だから家族というものに確信が持てなくなっちゃった。幻想でも家族にすがりたいんだけど、幻想がわかっちゃったから絶望ばかり」―映画「浜の朝日の嘘つきどもと」(タナダユキ脚本・監督、2021年)で主人公の浜野あさひ(高畑充希)が言う。震災・原発事故後、東北や福島をテーマにさまざまな映画がつくられたが、この作品は共感できるものの一つと言える。
 舞台は南相馬市。100年近い歴史を持つ映画館「朝日座」をめぐる物語で、タナダ監督の脚本・演出が冴え、映画やまちの映画館へのオマージュにあふれている。凝ったディティ―ルも見逃せない。
 原発事故のあと、放射線量が高い被災地に入って人やものを運んで成功し、「震災成金」と陰口をたたかれた父、それをきっかけに友だちが去り、生きることさえつらくなってしまった主人公。母は体の弱い息子を心配するあまり必要以上に放射能に敏感になり、自分を見失ってしまう。そんなあさひを救ってくれたのが、映画好きで男にだらしのない女性教師(大久保佳代子)だった。
 家族が崩壊し絶望の淵に立たされたあさひは、女性教師とのつきあいを通して血のつながらないコミュニティーをつくることに希望を見出す。その場所が街の映画館だった。「朝日座を残す」というおせっかいは、乳がんで亡くなってしまった女性教師の遺言でもあった。

 3月には震災・原発事故から丸12年になる。その間、再生エネルギーへの転換、脱炭素社会の構築が叫ばれ、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻があった。ガソリンをはじめさまざまなものが不足して物価が上がり、政府は脱炭素化とエネルギーの安定供給を目的に原発回帰へと舵を切った。「愚かだ。何を考えているのか」と怒りがこみ上げて来る。 面積の広いいわき市内を車で歩くと、景観の変化に驚かされることが多い。ちょっとした空き地には太陽光パネル、山には風力発電のプロペラ、まちには駐車場。古い建物が壊されたと思ったらすぐ駐車場が現れ、商店街が虫食い状態になっていく。中山間地域には朽ち果てた廃屋も目立つ。そしてふと空を見上げると送電線が仁王立ちしている。何がそうさせてしまったのだろうか。

 「みんな、この映画館がいつまでもあると思っているから大事にしないんだよ。どこもそう。解体するって決まってから惜しまれる」。最後のあさひのつぶやき。それは、みんなに向かっている。                                                                                                                                                                                                         (安竜 昌弘)

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