

近づく海洋放出 国の顔色を窺う知事
抗うと風評加害者 でもあきらめない
何も変わらない |
トリチウムなどを含む汚染水の海洋放出が間近に迫っている。そうしたなか、内堀雅雄福島県知事は6月19日の定例記者会見で「世界各国の受け止めは地域で異なるが、政府による正確な情報発信に一定の成果が出つつある」という認識を示した。さらに、放出前に改めて政府に求めることについて、万全な風評対策や国内外の理解を挙げ、「国が責任を持って取り組むべきだ」と述べたという。朝日新聞の福島版が伝えている。この発言を読み解くと「放出はやむを得ない。国の責任において、風評対策、国内外の理解をしっかりとやってもらいたい」と聞こえる。
内堀知事が誕生したとき、佐藤栄佐久元知事を訪ね、「総務省の官僚だった内堀さんが国や東電がすることにノーと言えるでしょうか」と尋ねたことがある。そのとき佐藤さんは「わたしの下で働いてきたのだから、内堀なら大丈夫。国や東電と対峙できますよ」と断言した。でも、そうではなかった。 佐藤さんは原発問題に対して、つねに県民の立場で国や東電にはっきりとものを言った。それが「国に抗う知事」として地検特捜部の標的にされ、知事職を追われてしまった。
内堀さんは震災・原発事故のとき、副知事として陣頭指揮に当たった。そして県は、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)をきちんと知らせなかったために浪江町民などが放射能プルームと同じ方向に避難し、無用な被曝を受けた、と指摘されている。しかし、この問題はあやふやになり、内堀さんが知事になったあともきちんとした検証、説明がなされていない。
SPEEDIは有効だったのか、役に立たなかったのか。どうして放射能が流れる方向を事前に知らせることができなかったのか。そのとき、何が起こってどう判断したのか―。そうした疑問が、いまだに解明されていない。事故当時の内閣官房長官として「直ちに健康には影響がない」と繰り返し続けた枝野幸男衆院議員も同じで、県民としては謝罪や説明という踏絵に乗らない限りは、信頼することはできないのだと思う。
元日に太平洋から昇る初日の出を見て、いわきの海岸線を歩く取材を始めた。そして海洋放出について尋ねた。ほとんどの人は反対だったが、なかには「仕方がないのでは…」「立場的にノーコメント」と言う人もいた。そして「国が決めたことだから、どうせ流されんだっぺね」というあきらめムードが漂っていた。
汚染水を放出する準備は着々と進んでいる。国は莫大な広報費を使って安全キャンペーンを繰り広げ、疑問を口にするとまるで「風評加害者」。しかも、わがリーダーは国の顔色を窺い、毅然とできないでいる。何も変わらない。
(安竜 昌弘)
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