ドラマ「たそがれ優作」
煙草を吸うシーンが
先輩記者の姿とかぶさって見えた
ハイライト |
BSテレ東の「たそがれ優作」を楽しみに見ていた。原作は「深夜食堂」で知られる安部夜郎の漫画。主人公である北見優作は52歳のバツイチで、渋い脇役俳優だ。撮影所と団地の自宅を往復しながら、夜は酒場へと繰り出す。優作役は北村有起哉。これがはまっている。
第6話の「厚焼きたまごサンドのロマンス」ではカウンターバーでカクテルを飲みながら、かつての看板女優(前田美波里)と思い出を語り合う。その会話がしゃれている。優作が「ギムレットには早すぎる」と言うと女優が「チャンドラーの『長いお別れ』ね」と返す。
厚焼きたまごサンドは女優にとって忘れられない食べ物で、優作が特別にマスターに頼んで作ってもらう。思い出を噛みしめるように、女優がたまごサンドを食べている間、優作は席を外し、外で煙草を吸う。とてもいいシーンだ。
煙草を吸わなくなって久しい。地域紙にいたころは粋がって「チェリー」を吸っていたが、似合わないうえに頭痛に悩まされ、自然にやめた。席が隣の敬愛する先輩記者は、締め切り時間になるとブリキの灰皿にハイライトの吸い殻が山になった。
その先輩とはたまに会って、いまでもご馳走してもらっている。飲み屋に入ると「ここは禁煙ですか」と尋ねる。いまはほとんどの店で灰皿を置かない。話が一段落したころ「ちょっと外で煙草を吸ってくる」と中座する。煙草はいまも和田誠デザインのハイライト。「たそがれ優作」のシーンと先輩の姿がかぶさった。
阪神が18年ぶりにリーグ優勝を決めたあと、その先輩から全国紙とスポーツ紙の束が送られてきた。「次は何年先になるかわからないから保管しておいてくれ」というメッセージが添えられていた。出身はいわきなのだが、地域紙から全国紙に転じて地方や本社を歩き、定年後は大阪の関連会社で仕事をした。そのころ「大阪はいいぞ、面白い」と言っていた。それもあって阪神―オリックスの日本シリーズは願ってもない組み合わせだったのだろう。ともに阪神ファンということもあって、珍しくLINEでのやりとりが増えた。
忘れられない思い出がある。いくら原稿を書いてもデスクから戻されてしまう。何がどうなっているのかがわからず、10回近いやりとりがあった。頭がこんがらがって呆然としていたら、見かねた先輩が「見せてみろ」と言ってくれた。原稿を真剣に読んだあと、前文を少しだけ直し「これで出せ」と言った。たったそれだけで上から下へ水が流れるような原稿になった。そのとき初めて原稿の入口が迷路のようだったことに気づいた。原稿はスッとデスクの机の引き出しに収まった。
(安竜 昌弘)
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