522号 田中投手の退団(2024.11.30)

画 黒田征太郎

 

    ファンあってのプロ野球のはず
   腑に落ちない楽天のやりかた

田中投手の退団

 「プレミア12」の決勝、日本-台湾戦を前に「楽天の田中将大投手が自由契約になり、楽天を離れる」というニュースが流れた。確かに2021年にヤンキースから楽天に復帰してからは、4年間で20勝止まり。今季は右肘関節のクリーニング手術の影響もあってプロに入ってから初めて未勝利に終わった。すでに36歳。楽天復帰後は大事なところで踏ん張れない投球が目立ち、往年の田中らしさが影を潜めていた。
 記者たちの前に姿を現した田中は退団に至る経緯を説明したあとで、「さまざまな憶測が飛び交い困惑している。決して提示額の多い少ないではなく、『期待されていないな』と感じたことが大きい。やりがいのある場所を探すつもり」と胸の内を明かしたという。日米通算200勝まであと3勝。田中としては「楽天で達成する」という気持ちが強かったのではないか…。思いは複雑だ。
 前兆はあった。ほとんどの解説者が最下位予想だったのにもかかわらず交流戦で優勝し、若手を育てて来季に期待を持たせた今江敏晃前監督を、契約が1年残っているというのにバッサリ切った。こうしたことは今に始まったことではない。チームの精神的支柱だった嶋基宏捕手(現ヤクルトヘッドコーチ)が意を決して「オーナーは現場に口をはさまないでください」と三木谷浩史オーナーに直訴したらヤクルトに出された。
 故星野仙一さんが監督やシニアディレクターをしていたときはオーナーの壁になって現場を守っていたが、星野さんが亡くなり、石井一久現シニアディレクターがGM、監督になったあたりから、チームがぎくしゃくし始めた。三木谷オーナーの意向で方針がころころ変わり、端で見ていても「これでは選手がのびのび出来るはずがない」と感じた。
 今江前監督が解任されたあと、三木肇二軍監督が昇格したのを見ても、石井シニアディレクターによる人事であることが、だれの目にも明らかだった。楽天はどうして、これほどまでに選手やスタッフのやる気を削いでしまう情のない球団になってしまったのだろうか--。
 いまささやかれているのは、親会社である楽天の携帯電話事業(楽天モバイル)の不振。確かに今シーズンは支配下選手の数が12球団で最低だったし、ここ数年、補強らしい補強が行われていない。今江前監督の年俸も4000万円と破格の安さだった。そうしたことを考えていくと楽天イーグルスの象徴とはいえ、戦力として計算できない田中の年俸を大幅に引き下げざるを得なかったのだろう。巷では球団の身売りまで噂に上っていて、楽天をめぐるストーブリーグはさらに燃え上がりそうだ。
 今シーズンの楽天にあって献身的なプレーでチームを鼓舞し続けたのは鈴木大地選手だった。そうした選手たちの懸命さに球団は応えなければならない。今のままでは選手たちが気の毒だ。     

                                        (安竜 昌弘)

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