人生は自分でつくり出すもの
3人のおばあさん |
わが家の玄関に月替わりで、絵本を数冊置いている。「絵本棚」と呼んでいて、気ままに選んでさり気なく並べている。例えば、5月にはシャーロット・ゾロウの『おかあさん』、8月はマックロスキーの『すばらしいとき』など、その時々楽しんでいる。
12月の最初の日曜日にクリスマス飾りをした時、絵本棚の本も12月のものにした。この時期はいつも迷ってしまうけれど、今年はグランドマア・モーゼスの『サンタクロースがやってきた』、ターシャ・テューダーの『クリスマスのまえのばん』、バーバラ・クーニーの『おもいでのクリスマスツリー』にした。
3人とも大好きな絵本作家で、もうこの世にはいないのだが、それぞれの生き方にあこがれる。モーゼスおばあさんは12歳から女中働きをして、結婚後は農場を経営する夫を助け、子どもを育て、夫を亡くした後、75歳から本格的に絵を描き始めた。
日々のくらしや出来事、日常の風景を丁寧に描いた作品。80歳で初めて個展を開き、その後、作品展はアメリカ全土で開かれ、「ライフ」や「タイム」の表紙にも登場し、絵は101歳で亡くなるまで描き続けた。最後の作品の「虹」は「人生は自分でつくり出すもの」という、おばあさんの哲学を集約しているという。
『サンタクロースがやってきた』はクレメント・クラーク・ムーアの詩「聖ニコラスの来訪」(A Visit from St.Nicholas)に描いたもので、モーゼスおばあさんのほかにも多くの絵本作家が絵本にしている。ターシャの『クリスマスのまえのばん』もそうで、訳者と描き手が異なるだけで、まったく雰囲気の違う絵本になっている。モーゼスおばあさんは100歳の時にその絵を描き、絵本は亡くなった翌年に出版された。
ターシャは結婚後に初めての絵本『パンプキン・ムーンシャイン』を出版し、生涯に手がけた絵本は90冊以上になる。4人の子どもを育て、56歳の時にアメリカのバーモンド州の片田舎で、あこがれていた19世紀の生活スタイルでの1人暮らしを始めた。
糸を紡いで布を織り、食べものを作り、自給自足の生活を心がけた。好きな絵を描き、たくさんの植物や動物を育て、午後のお茶を欠かさず、生きていることを日々、楽しんだ。ジョージ・バーナードショーやヘンリー・D・ソローの言葉を好み、自宅の冷蔵庫にはマックス・マーマンの詩「デジデラータ」がはってあった。ターシャの本は「思う通 りに歩めばいいのよ」と背中を押してくれる。
『ルピナスさん』『おおきななみ』『エミリー』など、クーニーの絵本は女性の生き方を描いたものが多い。クーニーは夏には海辺のアトリエ、冬はその海を臨む山の手の家で絵筆を持ち、自身の人生を絵本にしてきた。中心にあるのは凛とした姿勢で、生きることの意味をも描いていて、読後、涼やかな風がこころに吹きわたる。
『おもいでのクリスマスツリー』はアパラチア山脈の小さな村で育った、クロリア・ヒューストンの家庭で代々受け継がれてきたくらしを基にしたクリスマスの物語に絵を描いたもので、クーニーは実際に当時のくらしを取材して描いた。物語のストーリーはそれぞれ違うけれど、クーニーの絵本の根底には『ルピナスさん』の主人公のアリスとおじいさんとの3つ目の約束「世の中をもっと美しくするために何かをすること」がある。
クリスマスのまえのばん
ねずみたちまでひっそりと
しずまりかえったいえのなか
だんろのまえにはくつしたが
ねがいをこめてかけてある
「サンタクロースはくるかしら…」
この間のヴィオラの会のコンサートに影響を受けて購入した、バッハやシューベルト、カッチー二、ヴェルディなど、さまざまな作曲家の「アヴェ・マリア」を集めたCDを聞きながら、気忙しい日々のなかで、3人のおばあさんの絵本を開く。
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