035回 ミモザ館(2010.2.15)

大越 章子

 





それぞれにとっていい場所に

ミモザ館

 湯本から御斎所街道を車で走ると、遠野の入り口辺りに、白壁にオレンジ屋根のプロバンス風の建物がある。折笠利文さん(62)と恵さん(59)が営むSALON & PENSION「ミモザ」で、東京に帰った「メゾン・ド・モンペール」の谷重勉さん、実余さん夫妻から譲り受け、昨年5月にオープンさせた。
 もともと折笠さんは谷重さんと隣組同士で、よくモンペールを利用し、親しくしてきた。東京に戻るため、モンペールを売りに出した谷重さん夫妻に「折笠さんにぴったりじゃない」と言われ、折笠さん夫妻は驚きながらも「そうかもしれない」と、1週間ほどで答えを出した。
 恵さんは以前から「ここでいろんな楽しみ方ができる」と、谷重さん夫妻に話していた。小さな音楽会、朗読会、みんなとの語り合い、向かいの山の遊歩道を歩いて自然にふれたり。読み聞かせやオカリナの教室など、日ごろからさまざまな活動をしていることもあって、イメージは広がった。

 譲り受けた建物を、折笠さん夫妻は「ミモザ」と名づけた。谷重さん夫妻がモンペールのシンボルとして大切に育ててきたミモザ。その花は太陽のかけらのようにキラキラしていて、かわいらしく、春に建物をすっぽり包んてしまう。覚えやすく、いい名前だと思ったという。
 谷重さん夫妻が営んでいた時と同じくペンションとティールームにして、ティールームには音響設備を整え、電子ピアノを置き、小さな集まりを楽しめるようにした。それに2階には本棚のたくさんの絵本を自由に読める「絵本の部屋」をつくった。
 ティールームではハーブティーや手作りケーキを用意し、ペンション客の食事を含め、テーブルに出すものはすべて無農薬にこだわっている。月に1度は小さなコンサートを開き、周囲の畑で無農薬野菜をつくるグループ「コンパス」も立ち上げた。
 訪れたお客さんはティールームに流れる音楽に耳をすましながらのんびりお茶を飲み、折笠さん夫妻とのおしゃべりを楽しみ、絵本の部屋で物語の世界にふけり、庭を歩いて植物と戯れる。子ども連れのお客さんには、恵さんが絵本の読み聞かせや、オカリナを吹くこともある。

 珍しくいわきに雪らしい雪が降った翌々日、「ミモザ」に折笠さん夫妻を訪ねた。パールミモザの花がいち早く元旦に咲いたらしいけれど、多くのミモザの木々はまだ冬の眠りのなかにいた。木々を揺らす風とミモザの気持ちよさそうな寝息がデュエットしていた。
 あと1カ月ほどでミモザは目覚め、きれいな花を咲かせ始める。折笠さん夫妻は、春を告げる黄色の妖精たちの訪れに合わせ、楽しい企画も考えているという。そのころには、東京で暮らす谷重さん夫妻もミモザに会いに来るだろう。
 「みんなが手を取り合える、それぞれにとっていい場になったら」。折笠さん夫妻は話している。
 春到来までもう少し。

 ミモザのティールームは金、土、日曜の週3日、午後1時から5時半までオープンしている。宿泊などの予約・問い合わせは0246(89)4512。

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