ラ・クァルティーナの歌うチェロ
プチ追っかけ |
チェロ四重奏団「ラ・クァルティーナ」のプチ追っかけをしている。N響の首席チェロ奏者の藤森亮一さんと、フォアシュピーラー(次席奏者)の藤村俊介さん、銅銀久弥さん、桑田歩さんの四人のアンサンブルで、それぞれ奏でるチェロが自由自在に歌い、カルテットハーモニーを聴かせる。
チェロは音域が人間の声に一番近いからかもしれない。ラ・クァルティーナの演奏は、「歌う」という言葉がぴったり合う。四人ともソリストでもあり、個性がまるで違う音の重なりが曲の厚みと深さを増し、自然に体に入ってきて全身を巡る。大好きな作家の本を一ページずつ大切に読むように、コンサートの時間を存分に楽しんでいる。
N響での演奏のほかはめいめいに活動し、四人全員が集まるのが難しく、コンサートは年に数回に限られる。コンサートに出かけると次回のチラシが渡され、余韻に浸っているなか、スケジュール帳を広げて予定を立てる。
初夏には茅ヶ崎でN響の若手奏者を四人加えた、八本のチェロでの演奏会が試みられた。四つのパートを二人ずつ、ある曲では八つのパートをそれぞれ奏で、時々、ラ・クァルティーナだけ、とバリエーションに富んだ演奏会だった。
奏者が倍に増えると、曲は複雑で繊細になって迫力も増し、ラ・クァルティーナは最小限のアンサンブルであることに気づかされる。シンプルで、気心が知れているからチェロが歌い、オーク樽で熟成されたウィスキーみたいな豊かな音が奏でられるのだろう。
晩秋は軽井沢の北欧風のホテルのレストランでの演奏会だった。きちんと数えてはいないが二百席ほどのサロン風の空間で、贅沢にチェロの音を浴びた。プログラムはいつも、定番にその時々で違った曲を加える。ラ・クァルティーナのテーマ曲とも言えるガルデルの「首の差で」はあいさつのようだし、クレンゲルの「四つの小品」の無言歌は、子どもが寝る前にベッドで読んでもらうおはなしのイメージがある。
プールトンの「ラブ・ミー・テンダー」は、一人ずつバトンを渡すように主旋律を弾き、その聴き比べが面 白い。渾身のバッハの「シャコンヌ」では、元気のエネルギーが注入される。
軽井沢は日本ロマンチック街道のまちに入っていて、その北欧風のホテルではオクトーバーフェストに合わせてドイツフェスタを開催し、演奏会もその一環だった。紅葉の浅間山を眺め、静かなまちを歩き、ソーセージをおつまみにドイツビールを飲み、温泉に入って、プチ追っかけしながら小旅行も楽しんでいる。
次は東京・狛江でのクリスマスコンサート。その前日にはみなとみらいでミッシャー・マイスキーのコンサートがあり、チェロ&チェロのクリスマスプレゼントになりそう。
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