049回 たんぽぽ(2011.6.2)

大越 章子

 





つねに太陽に向かって咲く明るさ

たんぽぽ

 「たんぽぽさんって、
  まぶしいのね。
  ひまわりさんの 子で、
  お日さまの まごだから。」
 と、ちょうちょうが きいた。
 たんぽぽさんは、
 うふんと わらった。

 まど・みちおさんはそう詩にしている。たんぽぽは好きな花なのだろう。その時々、変幻自在にいろんなふうに表している。今年のたんぽぽはいつにも増して眩しくて、野原や畦道を歩くとちょうちょうのつぶやきが聞こえる。
 たんぽぽは坂村真民も愛した花で、愛媛県砥部町の住まいに「たんぽぽ堂」と名づけるほどだった。こんな詩がある。

 踏みにじられても
 食いちぎられても
 死にもしない枯れもしない
 その根強さ
 そしてつねに
 太陽に向かって咲く
 その明るさ
 わたしはそれを
 わたしの魂とする

 5月半ば、静岡の野村昌子さんから真民の『たんぽぽの本』(春陽堂書店)が届いた。たんぽぽ色の表紙の、殿村進さんが絵を描いている本で、これまで多くの人に贈り、手元にあった最後の1冊という。

 震災から20日ほど経ったころ「そちらは日日新聞さんですか」と、編集室に電話があった。それが野村さんだった。津波で浸水して印刷ができなくなった新聞社が、手書きの新聞を作って避難所などに掲示していたのをテレビで知り、応援したくて、その日日新聞社を探していた。
 野村さんのお父さんは新聞記者だった。だから新聞に思い入れがある。新人記者が泥水をかきわけて現場に向かい、「私たちはペンと紙さえあれば仕事ができる」と1日も休刊することなく、新聞を発行する姿にこころを打たれたという。
 ただ、日日新聞としか記憶していず、NTTの番号案内サービスで教えてもらったのが日々の新聞だった。それなら河北新報の報道部で何かわかるかと思って聞いてみると、「たぶん石巻日日新聞じゃないですか」と教えてくれ、石巻日日新聞に確認して野村さんに連絡した。それから時々、野村さんと電話やファックスで近況報告をし合っている。

 江戸っ子の野村さんはいろいろな活動をしている。捨て犬や猫の保護、ツキノワグマのいのちを守るためのどんぐりを集め、イヌワシを救い、浜岡原発の全基停止と廃炉の運動や静岡空港廃港運動、今度の震災では救援物資も送っている。
 捨て犬や猫の保護活動の原点は動物実験の実態を知ったこと。自宅ではいま3匹の捨て犬を飼っている。「いのちに重い、軽いはありません。人間だからこそ弱いものをいたわり、守らなければなりません」。その思いは野村さんの行動すべてに通じる。
 いつも受話器の向こうの野村さんを想像しながら話している。きっと、たんぽぽのような婦人だと思う。この間は「だれかが騒がないと世の中は変わりません。何か大きなことがないと変わりません。チャンスです。時には鬼にならないとね」と力強く、チャーミングな口調で話していた。そして「そのうち会いましょう」と約束した。
 それぞれにできることはたくさんあり、気づいたら行動する。それはいまかもしれない。

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