非日常の空間で言葉や思考の森を散歩する
読書会 |
日々の新聞の編集室の1階にある「草野天平・梅乃メモリアルルーム」で、6月から第3水曜日に読書会が開かれている。メモリアルームを担当しているさえ子さんの提案で、お気に入りの詩や言葉、文章をひとつ用意すれば、だれでも自由に参加できる。
高校の国語の先生だった梅乃さんの蔵書に囲まれた部屋は、普段でも足を踏み入れただけで別 世界に迷い込んだ感じがして、窓から見える風景が現在進行形の現実の世界とつなぐ。そこでテーブルを囲み、持参した詩や文章を朗読し、思いを語り、お茶を飲みながらフリートークする。
読書会という言葉には懐かしい響きがあって、ひとつ屋根の下で3人の女子学生といっしょに暮らしていた学生時代に、タイムスリップする。いまで言うルームシェアのようなもので、唯一文系の学生だった智佳ちゃんが「あしたは読書会なの」と、お風呂の順番を決めるじゃんけんにも加わらず、深夜まで本を読んでいた。
翌朝は全員を起こしてしまうほどの、けたたましい目覚まし音が家中に響き渡り、いつもゆっくり最後に出て行く智佳ちゃんが、どたどたとまっ先にいなくなる。そしてたまに「きょうの読書会でね」と、お風呂のじゃんけんでみんなが集まった時に読書会の話をする。
ほかの3人が植物採集やマウスの解剖、深夜までかかった化学実験の話をしているなかで、読書会の話題は知的な優雅さがあって、外国映画のワンシーンのような光景を思い浮かべ、ひそかにあこがれていた。
もちろん天平・梅乃ルームの読書会は智佳ちゃんのそれとは違うけれど、月に1度、ナルニア国に通 じる衣装だんすの扉みたいに、天平・梅乃ルームのドアを開けて奥の部屋のテーブルにつくと、言葉や思考の森を散歩することができる。
初めての読書会はまず、タツ子さんが宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を朗読した。そして「賢治さんの詩はいろいろ読み方があるけれど、気負わず、つくらず、自分なりの解釈で読めばいい。花巻の空気にふれると、これでいいんだと思う」と言った。
さえ子さんは天平さんの「初夏の日なか」。海が見える山の小径に咲いたあざみを詠んだ六行の短い詩で、季節に合うものを選んだという。重夫さんは彫刻制作の原点になっている、星野富弘さんの「たんぽぽ」。「人間だって どうしても必要なものはただ1つ」と、シンプルな言葉のなかで真実をつかんでいて、30数年前、この詩を彫刻にしようと思ったという。
編集人は一番好きな本、川本三郎さんの『マイ・バック・ページ』の新装版のあとがき、わたしは読書会の日がちょうど命日だったターシャ・テューダーのお気に入りの言葉、『森の生活』の著者のヘンリー・ディヴッド・ソローの「夢に向かって自信をもって進み、思い描いた人生を生きようと努力するなら、思わぬ 成功を手にするだろう」を紹介した。
1時間半ほどの読書会は非日常のいい時間で、小さな宝物をいくつももらった気がする。読書会に参加する度、「ふしぎなポケット」みたいに宝物が増えていくことだろう。
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