091回 クリスマスを前に(2014.12.18)

大越 章子

 

画・松本 令子

待つことを楽しむわくわくした時間

クリスマスを前に

 11月最後の日曜日、自宅のクリスマス飾りをした。くるみわり人形、クリスマスじたくをするスノーマン一家の陶器人形、ボタンを押すと音楽が流れるツリー、スノーボール、聖歌隊、それにアドベントカレンダーなど、それぞれをいつもの場所に置いた。
 夕方には家族でアリオスに出かけ、中世のアイルランドの音楽を歌うアヌーナの混声合唱を聴いた。
 たくさんのキャンドルが灯されたステージで、十数人のメンバーがアカペラでアイルランド伝統曲や聖歌、クリスマス曲を歌った。曲目によって趣向を凝らし、マントをはおり、キャンドルを手に客席を歩きながらも歌う。そういう時は、何かの儀式に参列しているように錯覚する。
 クリスマス月の前の晩、むかしむかし、アイルランドがエリンと呼ばれていた時代にまで遡って、ケルトの妖精の気配も感じた。
 そして12月になった。
 たまに散策する横浜の山手の西洋館では毎年、12月初めから「世界のクリスマス」が開かれる。普段から無料開放されている山手本通 り沿いのいくつもの洋館それぞれにテーマ国を決めて、その国の特徴的なクリスマス飾りをして、文化を紹介している。
 今年は、石川町駅そばの大谷丸坂を上ったイタリア山庭園のブラフ18番館がシンガポール、外交官の家はニューヨーク、山手68番館がフィンランド、べーリック・ホールがスペイン、エリスマン邸はイタリアのアッシジ、山手234番館はフランス、港が見える丘公園のイギリス館はイギリス、山手111番館は日本のクリスマスを演出している。
 ツリーやリースを飾るだけでなく、洋館まるごとクリスマスの装いとなり、ダイニングテーブルはお料理を運べばいますぐパーティーができるぐらい、きちんとテーブルセッティングがされている。小物も1つ1つかわいらしく、花や植物のアレンジもすてきで、国によって室内の色彩 や様相がまったく違うのがおもしろい。
 6月にはバラの季節恒例のフラワーフェスタが行われ、アーティストたちが洋館を斬新に花で飾り、庭ではティーパーティも開かれるが、クリスマスはその国で営まれている家庭の日々の暮らしが垣間見える。
 山手の洋館は大正の終わりから昭和の初めの建築物が移築・復元されたもので、居留地時代の館は関東大震災でほとんどない。けれど日ごろから季節行事を大切にし、コンサートや展覧会なども開き、もともとそこにあったみたいに異国情緒と歴史をにおわせている。
 クリスマス月に山手本通りを歩き、招かれた客のように洋館を巡るのは楽しい。
 いわきではこの時期、駅前のケヤキ並木で、夜の森の桜をイメージした桜イルミネーションが輝いている。そのイルミネーションを眺めながら、平豊間の絵本美術館の今年のクリスマス飾りのテーマはなんだろうと思う。クリスマスまであと1週間。その日を待っているこの時間がいい。

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