095回 さくら巡り(2015.4.16)

大越 章子

 

画・松本 令子

観音寺川、桜島、桜峠公園、そして土津神社

さくら巡り

 昨年の5月の連休に、急に思い立って猪苗代に出かけた。観音寺川の桜並木を歩きたかったからで、前日に数時間かけてホテルを探し、ようやく磐梯山のふもとのホテルを予約できた。
 観音寺川の桜並木は、郡山側から言うと磐越西線の猪苗代駅の1つ手前、川桁駅のそばから観音寺まで1kmほど、観音寺川の両側に続いている。昭和の初めに植えられたソメイヨシノで、ほかにエドヒガンやしだれ桜、山桜もあり、自然な川の流れと緑の土手とピンクの桜がのどかで美しい。
 ライトアップされた夜もよさそうだったが、早朝に出発して、まだ露天も店じまいしている、人の少ない時間に川沿いをゆっくり歩き、観音寺にもお参りして、往復2kmの並木散歩を楽しんだ。
 そのあと、いつものように裏磐梯の五色沼周辺をトレッキングして、レンゲ沼でお弁当を食べ、桧原湖にぽっかり浮かぶ大山桜が咲く桜島を眺め、愛子さまのご生誕をお祝いして2001年に、全国からオーナーを募集して牧場跡地に2001本の大山桜を植えた、北塩原村の桜峠公園まで足を延ばした。
 いまでは3000本ほどにもなっているという桜峠公園は少し離れた場所から眺めてもきれいだが、どこまでも続く桜の木々の間を深呼吸しながら歩き回ると、桜の香りを思う存分感じられ、とても気持ちがいい。  ホテルにチェックインしたあとに出かけたのは土津(はにつ)神社。会津藩初代藩主の保科正之を祀った神社で、創建当時の建物は戊辰戦争で焼失し、いまの建物はその後に再建された。白い大鳥居は、桜の花がよく似合う。春の桜のころと、秋の紅葉のころがいいという。片隅にあるフタバアオイは夏に花をつける。
 正之のお墓の奥の院は、拝殿から木立の道を500mほど登った場所にある。夕暮れが迫っていたので、車で行って手を合わせた。帰り道は磐椅(いわはし)神社に立ち寄った。境内に会津五桜の1つの大鹿桜や、樹齢800年といわれる縁結び桜がある。
 1台がすれすれ通れるぐらいの道の手前で車を止めて歩いたが、「熊注意」の看板があちこちにあり、自然に早歩きになった。大鹿桜の花は開花時に白く、それからピンクに変わり、最後は鹿色になる。その時はまだ白い花がぽつぽつ咲き始めだった。縁結び桜は鳥居杉が二股にわかれた所に山桜が寄生し、毎年、花を咲かせている。
 翌日は天鏡閣に出かけた。庭でのティーセットがめあてだったが、寒くてお茶を飲む雰囲気ではなかった。けれど桜の大きな老木が、静かに小雨が降るように花びらを散らしていて、その姿をしばらく眺めた。
 桜の土津神社の風景がこころに残り、秋に再び訪ねた。その際、ゴンドラに乗って磐梯山の中腹まで行き、色づき始めた猪苗代のまちを一望した。ゴンドラ乗り場に行く間に見つけたのは、町営牧場の桜並木。牧場近くの道路の両側に1�以上続く。一昨年のNHKの大河ドラマ「八重の桜」のオープニングの最後の、磐梯山をバックに和傘が広がるシーンが撮影された場所でもある。

 この春、家族の1人が仕事の関係で、猪苗代町で暮らし始めた。「そんなに猪苗代が好きなら」と、土津神社の神さまが招いてくれたのかもしれない。引っ越しのあと、早速、お参りに行ったが、まだ雪にどっぷり覆われていた。猪苗代の春はこれから始まる。

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