108回 ガーデンカフェ(2016.6.15)

大越 章子

 

画・松本 令子

日々のくらしをもっと楽しくさせる空間

ガーデンカフェ

 バラの季節。久しぶりに常磐下湯長谷の「花遊庭」を訪ねた。加原世子さんが20年前に開いたガーデンカフェで、いまはオープンガーデンの期間(この春は6月19日まで、事前予約が必要)だけお茶が飲める。
 アーチをくぐると、森に入り込んだよう。その時々、表情を変えてきたガーデンは、年月とともに木々が育ち、ナチュラルな感じになっている。加原さんは、朝五時には庭に出て、草と格闘しながら手入れをしている。
 緑のなかにバラやジギタリス、クレマチス、スイートピー、カラーなどさまざまな花が咲いている。ひっそり隠れている植物もあるから、小道をゆっくり散歩しながら立ち止まって、見落とさないように眺めた。
 見上げるとヤマボウシやエゴノキの花も咲いている。みつばちがブンブン飛び回り、うぐいすも鳴いている。ベンチに座って木もれ日やそよ風と戯れ、深呼吸して森の空気をいっぱい吸い込む。体中にいい香りが行きわたり、とっても気持ちがいい。 
 ひとしきりガーデンを楽しんだあとは、カフェで昼食をとった。ミニ・アフタヌーンティーセット。バラの炭酸水にコールスロー、スコーンやほうれん草のパウンドケーキ、パイ、ヨーグルトなどを食べ、バラの紅茶を飲んだ。 

  このところ、京都・大原の築百年以上の古民家に暮らし、ガーデニングをしながら手作りの生活をしている、ベニシア・スタンリー・スミスさんの映画「ベニシアさんの四季の庭」を、時間があると少しずつ繰り返し見ている。
 半生を振り返りながら、庭作りやハーブなどを使った丁寧な日々のくらしが紹介されていて、なかでもガーデニングのシーンが多い。古民家に移り住んで20年になるが、子どものころ遊んだ自然を思い出すような庭を、と作り始めたという。
 庭で植物と過ごしていると、ベニシアさんは日常の心配や不安な気持ちがとけ、地球とつながっているような、静けさに包まれたすてきな時間が持てて、クラシック音楽など流して植物と一緒に聞いたりする。
 花の美しい季節には、親しい人たちを招いて午後のお茶会を開く。お気に入りのテーブルクロスの上にボーンチャイナのティーセットを並べ、庭の花を飾り、スコーンとクッキー焼いて、サンドイッチを準備する。久しぶりの人々と顔を合わせ、健康やしあわせを願いながらお茶を飲む。 

 花遊庭での時間は、ベニシアさんの姿や言葉をふと思い出させる。そういえば、アメリカのバーモント州でガーデニングなどナチュラルライフを満喫した、絵本作家のターシャ・テューダーも、午後4時半にアフタヌーンティーをしていた。ポーチの椅子に座って庭を眺め、隣に暮らす息子たちとたわいないおしゃべりをしながら、お茶を飲むリラックスタイムは1日のハイライトだった。その時間は毎日の生活をもっと楽しくさせると、生前言っていた。

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