110回 上を向いて歩こう(2016.8.31)

大越 章子

 

大人になって花子さんは悲しい歌と気づいた

上を向いて歩こう

 猪苗代湖畔の天神浜で、昨年に続いてこの夏も「オハラ☆ブレイク」が開かれた。音楽や舞台、美術、写 真、映画、小説など、いろいろなジャンルの表現が楽しめる九日間の大人の文化祭で、週末には三つのステージで交互にライブも行われた。2日目の7月最後の日曜日、ピクニック気分で天神浜に出かけた。
 今年のお正月に参拝した小平潟天満宮のそばの浜。手づくりのゲートをくぐって、松林のなかを出店や野外美術展を眺めながら歩き、風が通 りぬける木陰にレジャーシートを敷いた。アウトドアチェアも置いて、出店の山塩ラーメンなどで早めに昼食をとった。 
 そばの野外音楽堂からロックが聞こえる。その前でのりのりになっている人たち、音楽に合わせて踊っている子どももいる。ハンモックに寝ころんで本を読む人、湖で水遊びをする人、虫取り網を持って歩き回っている子ども、楽しくおしゃべりする人たち…それぞれが思い思いに過ごしている。
 そして、おめあてのアーティストのライブが始まる時間になると、レジャーシートはそのままにステージに移動。終わるとまだ見ていないエリアを散策して、レジャーシートの場所に戻って休憩する。

 午後4時、陽射しはまだ強い。風車に囲まれたそらいろ劇場で、大島花子さんのライブが始まる時間。丸太の客席に座って待っていると、リハーサルを終えた花子さんがステージから下りてきて、「いい所ですね」と声をかけられた。いくらか言葉を交わし、再びステージに上がって歌い始めた。
 笹子重治さんのギターとのデュオ。1曲目は忌野清志郎さんの日本語詞の「イマジン」だった。風が吹くと風車がくるくる回る。エリック・カールの絵本「はらぺこあおむし」の文章をそのまま歌にした曲では、絵本を読み聞かせるように、花子さんは歌う。突然頼まれて、わたしたちはその大型絵本をそばで広げ、歌の進行に合わせてページをめくった。 
 それから「手のひらを太陽に」。花子さんに手話を教えてもらい、みんなで合唱した。そして「上を向いて歩こう」。

 上を向いて歩こう
 にじんだ星をかぞえて 
 思い出す 夏の日
 ひとりぼっちの夜
 幸せは雲の上に
 幸せは空の上に 

 花子さんは坂本九さんの長女で、飛行機事故で父を亡くした時、11歳だった。大人になって「上を向いて歩こう」が悲しい歌だと気づいたという。十数年前に「見上げてごらん夜の星を」でメジャーデビューし、その後、長男を出産して、いのちの尊さやかけがえのない日常をテーマに、身近なライブで多くの人々に音楽を手渡している。
 自然体なステージはピュアでやさしく、心地よくて、聴き終えたあと、温かな気持ちになった。

 正面に磐梯山がそびえる、砂浜の一番大きなステージには高田漣さんやスガシカオさんなどが立ち、陽が西に傾いたころ、ORIGINAL LOVEの田島貴男さんが歌い始めた。刻々と変化する夕暮れの猪苗代湖畔の風景と、田島さんのギターと歌がコラボレーションして、風車のそらいろ劇場とともにこの夏の思い出のワンシーンになった。

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