

雨ニモマケズ、今ニモマケズ
Strong in the rain |
Strong in the rain
Strong in the wind
Strong against the summer heat and snow
He is healthy and robust
作家で翻訳家のロジャー・パスバースさんが英訳した、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の冒頭のところだ。
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
いわき賢治の会の新年会で、今年の抱負を1人ずつ話した時に「雨ニモマケズ」の英訳を朗読した女性がいた。つかの間、だれもが無言で聞き入り、日本語とは違う言葉の広がりを感じた。
そのあと、さまざまある「雨ニモマケズ」の英訳のなかで、パスバースさんの訳を音読してみたり、詩人でもあるアーサー・ビナードさんの絵本『雨ニモマケズ Rain Won’t』 (今人社)を開いたりしている。ビナードさんは次のように英訳している。
Rain won’t stop me
Wind won’t stop me
Neither will driving snow
Sweltering summer heat
will only raise my determination
With a body built for endurance
そう言えば東日本大震災の1カ月後、世界の主要な宗教の代表者がワシントン大聖堂に集まって日本のための祈りが行われた時も、祈りのあとに「雨ニモマケズ」の英訳が朗読された。
Unbeaten by rain
Unbeaten by wind
Unbowed by the snow and the summer heat
Strong in body
あのころ、よく「雨ニモマケズ」を耳にした。けれど原発事故であらゆるものがさらけ出され、言葉も信頼をなくし、単なる伝達手段でしかなかった。魔法がかけられない魔法の杖のように、言葉は本来の力を失い、「雨ニモマケズ」もBGMのように通 り過ぎて行った。
「『雨ニモマケズ』の舞台は日本と思いがちだが、作品が生まれたころといまの日本はあまりにも異なり、まるで別 の国だとわかる。それをわきまえて読まなければ、作品の意味をはき違える」
『雨ニモマケズ Rain won’t』の「あとがき」でビナードさんはそう書いている。「あとがき」のタイトルは今ニモマケズ。別 の国には原発事故による放射能汚染だけでなく、賢治が「雨ニモマケズ」を書いた1931年と、21世紀の現代という時代や環境の変化なども含んでいる。
6回目の3.11を迎えたいま、賢治が書いた日本語での「雨ニモマケズ」を見聞きすると、3.11以前の印象と、直後の言葉が信頼を喪失した虚無感の肌ざわりが交錯する。本来の力を本当に取り戻すには、向き合う1人1人の意識にかかっている。
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