127回 お鍋のはなし(2018.2.16)

大越 章子

 

画・松本 令子

寒さ厳しい冬に身もこころも温まる

お鍋のはなし

 この冬はほんとうに寒い。立春を迎え、春の足音に耳をすませてみるが、かすかにも聞こえない。暖かい部屋から外に出ると、瞬時に冷気のベールに包まれ、頬には空気のブロックがあたる。寝る前には寝室を暖め、布団も敷き毛布と湯たんぽで前もって温めているのに、昨夜も顔が寒くて目を覚ました。
 こういうときは積極的に、体が温まる食事をとる。おでん、シチュー、豚汁、鍋焼きうどん、すき焼き……なかでもこの冬はお鍋をよく食べている。それも鶏団子の鍋がたぶん一番多い。具材がシンプルで体にやさしく、見た目もきれいで、何よりおいしい。 
 簡単にレシピを紹介する。おいしさの鍵を握るのは、やっぱり鶏団子。胸ともも半々の挽肉に少々の塩と胡椒、ショウガのしぼり汁、サラダ油を少し、醤油をほんの少し、みじん切りしたネギ、少々の片栗粉を混ぜて、直径2.5cmのお団子に丸める。いちいち作るのが面 倒なら、まとめて作って冷凍しておくのもいい。
 土鍋でこんぶ出汁をとり、そこに別な鍋で浮いてくるぐらい煮た鶏団子を汁ごと入れる。あとは白菜やしらたき(結んであるもの)、しめじ、えのき、豆腐、にんじん、ねぎなどを加える。薬味はポン酢と大根おろし。日本酒を飲みながら、熱々の鶏団子の鍋を食べる。
 日本酒はこのところ磐梯酒造の「乗丹坊(じょうたんぼう)」(無濾過生原酒)を飲んでいた。平安末期、慧日寺(磐梯町)の衆徒頭だった僧から名づけたお酒。最近は、小学校の同級生にもらった喜多の華酒造の「星自慢 うすにごり」(特別 純米 無濾過生原酒)。発泡にごり酒でさっぱりしていて、辛口でおいしい。
 鍋がからっぽになるころには、体はすっかり温まり、お酒のおかげで顔色もいい感じになっている。このあいだは春雨鍋にしたが、あっさりしすぎていて、鶏団子のエキスがとけ出している鍋のおいしさにはかなわない。 

 1月下旬に、小学校時代の同級生たちと居酒屋で新年会をした時も、みんなの希望でお鍋をお願いした。数年前から年に2、3回集まって、お酒を飲みながらその時々、いろんな話をしている。なかには卒業以来という人もいたが、そこは同級生。定期的に会っているうちに、遠いあの教室の気心の知れた仲間に戻っている。
 新年会ではまた1人、久しぶりの顔が加わり、新たな再会を祝した。そこで出てきたお鍋はというと、偶然にも鶏団子鍋だった。鍋の登場とともに、いつも県内あちこちのお酒を持ってきてくれる同級生が、クーラーバックから「きょうはこれ」と、取り出した2種類の日本酒を味わい、鍋と日本酒の相性を楽しく評した。
 それにしても、みんなよく飲み、よく食べ、よくしゃべり、よく笑う。気がつくと、4時間もその居酒屋のこあがりにいて、こころも体もぽかぽかになって場を移した。この冬のマイブームでもある鶏団子鍋も派手さはないが、品のあるいい味を出していた。
 さて、あと何回、鶏団子鍋を食べると、春が来るのだろう。

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