130回 湖に浮かぶ桜の島(2018.5.15)

大越 章子

 

画・松本 令子

目の前の風景と林さんの写真が共鳴する

湖に浮かぶ桜の島

 西会津の山あいに、廃校になった新郷中学校の木造校舎を利用した「西会津国際芸術村」がある。地域と都市、他国との文化交流施設で、アーティスト・イン・レジデンスやギャラリー、芸術教室、コンサート、講演会などが行われている。つくられて十数年が経つなかで、昨年夏から設備改修工事が行われ、この春、リニューアルオープンした。
 リニューアル後、最初に開かれた作品展は、林明輝(りんめいき)さんの写 真展「Design Scape 新しい風景のかたち」だった。林さんは30年、自然風景を撮り続けていて、いまも日本の絶景を求め、年に200日以上、各地を旅している。2009年からは地上と並行して、ドローンを使って空からの撮影もしている。
 写真展「Design Scape 新しい風景のかたち」では、風景をより立体的に伝えるため、違う視点でとらえた2つの写 真を組み合わせた。同じ場所や被写体を地上と空から撮ったものや、撮影時間を変えたものなど、天気や光、構図やアングルを変えて撮った写 真を並べることで、風景が描く物語は広がる。
 群馬県針山の樹齢300年といわれる天王桜は、早朝に空撮した写 真と、夕暮れにライトアップされ水の張られた田んぼにシンメトリーに映る写 真を組み合わせた。かわいらしくて幻想的で、まるで天王桜をそばで見ているかのように、2つの風景が目に焼きつけられた。
 長野と新潟の県境の深坂峠のミズバショウ、新潟・十日町の星峠の棚田と雲海、富山の立山連峰と称名滝、岩手の折爪岳のヒメボタルなど、林さんはどの風景もこころにイメージし、それが撮影できるまで追い求めている。

 展示作品のなかに、桧原湖の桜島があった。その小さな島のヤマザクラが満開の早朝に、ドローンを使って撮影した写 真で、1枚は島の真上から、もう1枚は水面に映る陽の反射とシルエットのような裏磐梯山の一部が入っている。
 前からずっと満開の時期に見たいと思っていた、桧原湖の桜島の風景がそこにあった。林さんの説明文にも「満開に遭遇することそのものが貴重」と書かれている。桜の開花時期は毎年違い、最近の傾向では、地元の観光協会などに問い合わせて「あと数日で満開」などと言われた時には、あっという間に咲いて、当日や翌日の豪雨や強風で一気に散ることが多いと感じているという。
 桧原湖に浮かぶ桜の島。ダメもとで調べてみると、ちょうど満開のころのようだった。それなら、桜の島を眺めたい場所がある。磐梯桧原湖畔ホテルに向かった。ちょうど午後のお茶の時間で「ラウンジでお茶を飲みたいのですが」とフロントの男性に言って、案内してもらった。
 そこから裏磐梯山をバックにした桜の島がよく見える。「桜はほぼ満開です。電話での問い合わせも多いですよ」と男性は言って、メニューを渡してくれた。混雑を予想していたのにラウンジは貸し切り状態で、ジンジャーエールを飲みながら、ガラス越しに桜の島をゆっくり眺めた。
 そのあとホテルの庭に出て湖のほとりを歩き、満開の桜の島を満喫した。目の前の桜の島と、西会津国際芸術村で見た林さんの桜の島の写 真がシンクロして、島のなかを散策しているみたいに思えた。
 思いがけず、ほぼ満開の桜の島を見られた。遊覧船から眺める方法もあったが十分だった。帰り道、裏磐梯ビジターセンターに立ち寄ると、クマの目撃情報が貼り出されていた。磐梯山近辺のクマも冬眠から目覚めたようだ。

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